「新潮文庫」の謎 なぜ、名作・傑作がそろっているのか ヒットの軌跡・新潮文庫(上)
大半の書店で別格の扱い
新潮文庫を手に取りやすい理由は書店での居場所が大きい。文庫コーナーで目立つポジションに、かなりのスペースを確保しているから、自然と目に入る。 ロングセラーのタイトルが多く、安定的に売れることもあって、大半の書店で別格の扱いを受けている。「過去に優れた作品を文庫化した先輩たちのおかげ」(佐々木氏)。他社にはまねのできない圧倒的なタイトルの厚みが新しい読み手も呼び込む。タイムリーなフェアの開催は読み手の関心を掘り起こす。2024年には安部公房の生誕100年という節目をとらえた。 文庫レーベルの数は昔とは比べものにならないほどに増えた。そうした中、新潮文庫らしさはどこにあるのか。 佐々木氏は「小なりといえども、書物であるべき」と言い表す。中身本位の編集姿勢を貫き、時事的なキャッチーさに頼らず、新潮社が出すのにふさわしい水準を保つといった意味だろう。そうしたスタンスで送り出されたタイトルはロングセラーとなり、出版史に刻まれていった。 後編では文庫キャンペーンの歴史を書き換えた「新潮文庫の100冊」フェアや、『百年の孤独』をはじめとする近年のヒット作、10周年を迎えた「新潮文庫nex」などを通して、新潮文庫110年の歩みをたどる。