リーダーは、第三者から得た情報をどのように当事者に伝えるべきか
フィードバックとは、目標達成に向かう中で相手の現在地を明確にし、理想の実現に向けて軌道修正に必要な情報を提供することです。コーチングに限らず、マネジメントにおいてもフィードバックは重要なコミュニケーションの一つですが、コーチングではとくにクライアントの行動変容を促す上で重要です。しかし、フィードバックは難しいコミュニケーションでもあり、適切に扱わないと、相手のエネルギーを奪う結果となりかねません。
顔の見えないフィードバック
Aさんは、ある会社の組織変革プロジェクト事務局でリーダーを務めています。プロジェクトに関するある打ち合わせで、Aさんから悩みを打ち明けられました。 「同僚のBさんから『プロジェクトに対して不満が出ているのでフィードバックしたい』と言われました。話を聞くと『他の人たちが厳しい意見を言っている』と言うんです。さらには、発言の主を聞いても明かしてもらえず、しかも具体的な内容も教えてもらえません。具体的にどんな問題が起こっているかがわからないと手の打ちようがありません。それに『みんながそう言っている』かのような言い方をされ、人格が否定されたようで、とてもつらいんです」 Aさんは、このことが気にかかって、この数週間、本当の意味で笑えなくなってしまったと言います。Aさんの様子からは、プロジェクトの舵取りの判断だけでなく、感情的にも混迷を深めていることがわかりました。 Bさんはプロジェクトを成功させるために、Aさんに重要な情報を伝えようとしたのかもしれません。しかし実際に起こったのは、プロジェクトの品質向上とは関係のないAさんの混乱、混沌、不安、迷いでした。
フィードバックとは何か
EQ(Emotional Intelligence)の提唱者、ダニエル・ゴールマン氏は、コミュニケーションについてこのように言います(※1)。 「コミュニケーションは、情報を共有するだけではなく、関係を構築し、信頼を築くプロセスである」 また著名なコンサルタントであるサイモン・シネック氏は、その著書『WHYからはじめよ』で、リーダーシップについて次のように記しています。 「リーダーシップは、信頼の構築と関係の育成に関連している」(※2) 冒頭で述べたことに加え、これらの観点からも、フィードバックとは、感情的な信頼関係を築き、相手の成長を促していくものであると考えられます。しかし、BさんのAさんに対するコミュニケーションからは、残念ながらそのスタンスが感じられません。 そう考えたとき、Bさんのコミュニケーションは果たして「フィードバックと言えるのか?」という問いが生まれます。 情報源も内容も明かさないフィードバックでは、軌道修正には役に立ちません。今回のように「社内に不満がある」という情報だけでは、ある意味噂話の域を出ず、Aさんをより不安にさせる結果となりました。さらに言えば、誰が言ったのかわからない情報によって、Aさんとプロジェクトの参加メンバーとの信頼関係は損われた可能性すらあります。 Bさんは本来のフィードバックの発信者ではありません。いくらBさんが誰かのフィードバックを正確に代弁したとしても、そこには情報を持っている側と持っていない側というヒエラルキー構造が自動的に発生します。意識的であれ無意識であれ、その構図に対してAさんが違和感や嫌悪感を抱いていることが感じられます。つまりAさんは、本来向き合うべき改善のための情報ではなく、同僚Bさんとの関係性に向き合ってしまうことになっています。 今回のように「アクションの取りようがない」情報のインプットは、自身の行動や改善に落とし込むこと自体が困難です。そして、「なんとか改善したい」という気持ちは、永遠に「未完了」として心に残り続けます。さらには、Bさんとの関係性までもがAさんにとっては「未完了」として残っていくのです。