日本トップハードラーが“産後2年”でラグビー選手に? 女子陸上・寺田明日香が振り返る「異例の転身」のウラ側…直面した「アスリートの保活問題」
女子100mハードルの第一人者・寺田明日香(34歳)とマネージャーの佐藤峻一さん(41歳)夫婦。若手ハードラーとして将来を期待された寺田は弱冠23歳で引退。その翌年に結婚して、長女を授かった。出産から2年後、寺田はアスリートとしてふたたび表舞台に出る。だが、それはトラックではなくラグビー場だった。一度は「泣いて断った」という7人制ラグビーに転向した背景とは。《NumberWeb「アスリート結婚特集」全3回の2回目/つづきを読む》 2013年6月の日本選手権を最後に、当時23歳だった寺田明日香は陸上競技の現役引退を表明した。11年頃からは摂食障害や無月経、怪我にも悩まされ、心身ともに限界を迎えていた。 時を同じくして、国内では2016年のリオデジャネイロ五輪の正式種目となった7人制ラグビーの強化が加速度的に進んでいた。当時、女子ラグビーの競技人口は少なく、代表選手を選ぶにあたって、他競技からの候補者を集める動きがあったのだ。 実は寺田の夫となる佐藤峻一さんは、知人の紹介でラグビー元日本代表の吉田義人氏に出会い、日本初の7人制チーム「サムライセブン」の設立に関わっていた。
ラグビー転向を打診も…「その場で号泣された」
また、寺田も競技と浅からぬ縁があった。元円盤投の国体選手で、リオ五輪代表の桑井亜乃は中高時代からの仲。競技に可能性を感じていた佐藤さんは、桑井と手を組んで、引退直後の寺田を引き込もうとしたという。 「3人の食事会で切り出したら、その場で号泣されてしまったんです。僕としては、彼女がせっかく陸上を頑張ってきたのに、嫌な思い出のまま終わるのはもどかしかった。チームには、110mハードルのインターハイチャンピオンの飯田(将之)も入っていたんです。彼女もラグビーに転向したらまた前向きになれるかなと思ったのですが……」(佐藤さん) 寺田が当時を振り返る。 「絶対に無理、やりたくないって言いましたね。こんだけ病んで陸上を辞めているのに、なんでまた人前に出て評価されなきゃいけないの? って。文字通り『えーん』って大泣きして、ふたりにごめん、ごめんって謝られちゃって……(笑)」 寺田が抱えていたトラウマは、佐藤さんの想像を超えるものだった。 夫婦の間で、ラグビー転向の話題は“タブー”となった。 その後、寺田は2014年3月の結婚とほぼ同時に早大人間科学部に進学。8月には長女・果緒ちゃんを出産し、通信課程で幼児体育を学びながら、会社に勤めた。スポーツは好きだけど、少し離れて眺めるくらいがちょうどいい。現場からは離れていくつもりだった。 ところが、ひょんな縁で人生が転がっていく。 2016年、佐藤さんが関わる長崎でのスポーツイベントに同行した。ゲストとして参加していたのが、元陸上選手のラグビートレーナーだった。 「当時はリオ五輪が終わった直後で、女子のセブンズは12チーム中10位と苦戦しました。これなら正直、寺田にもまだチャンスがあるのでは? と思っていて。あくまで雑談ベースで話していたら、そのトレーナーが『まだ全然間に合うよ』と彼女の背中を押してくれたんです」(佐藤さん) 3年前には泣くほど転向を拒んだ寺田だが、その勧誘はスッと受け入れられたという。彼女を変えたものは何だったのだろうか。 「陸上をやっていた頃は『結果が出ない選手は、人間としての価値がない』と思うほど自分を追い詰めていたんですよね。でも、娘が生まれて、会社で働くようになったら、選手時代を知らない人たちとの関わりも増えていくじゃないですか。 色々助けてもらうこともあれば、逆に私が返せるものもあって、ちょっとずつ『自尊心』が回復していきました。選手じゃなくても、一人の人間として認めてくれる人たちもいるじゃんと思ったときに、スポーツの見方が変わったんですよね」
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