名古屋だけが観光地として「物足りない」のはなぜ…「充実し過ぎる街」が抱える問題点
ショッピングセンターが充実し過ぎる問題
名古屋を「物足りない街」にしているもう一つの要因は、ショッピングセンターの多さだ。日本ショッピングセンター協会によると、名古屋市内のショッピングセンター数は79店で、東京23区、横浜市、大阪市に次ぐ全国第4位。市内にはイオンモールだけで7店舗もあり、大阪市内(2店舗)と比べても圧倒的な多さである。 こうしたモールは日用品からファッション、レストランまでそろい、生活を完結させる便利な場所だが、その反面、街歩きの魅力を奪っているようにも感じる。 「わざわざ栄に行かなくても、近所のイオンで済ませられる」と思ってしまうため、繁華街に足を運ぶ機会が減る。さらに、どのモールも似たようなテナントが入っているため、どこに行っても同じ印象を受け、「それ以外がない」という感覚が強まるのだ。こうして、便利さが逆に街の個性を薄める一因にもなっている。
「何もなさ」の正体は「テーマ性の欠如」
こうした観光スポットの点在、繁華街の雑多さ、そしてモールの無個性化が重なり、「なんとなく名古屋には何もない」というイメージを生み出しているのだろう。 街全体に一貫したテーマがなく、訪れる人に「わざわざ行きたくなる理由」を提供できていないことが問題だ。 さらに、神戸のように「街のらしさ」を守る努力が名古屋には欠けているのかもしれない。全国的に見ると神戸や名古屋はインバウンドに苦戦している街だが、神戸の知人は「神戸の街がぐちゃぐちゃになるのが嫌だから来なくていい」と話す。 それだけ、「神戸らしさ」が確立されているとも言えるだろう。 これからの街づくりでは、エリアごとのテーマ性が重要になる。 「美術館巡りなら上野」「古着なら下北沢」といったように、「〇〇なら名古屋」と言える場所ができれば、わざわざ訪れる理由が生まれるはずだ。 都市開発によって、日本全国が同じような街へと画一化されていく中、単なる観光施策では十分ではなく、住民も観光客も楽しめる街づくりが求められている。
名古屋らしさの模索と次の一歩
名古屋の「何もなさ」は、欠点というより「便利さ」の裏返しでもある。それだけ、名古屋が住む場所として優れているのだろう。しかし、便利なだけでは人を惹きつける街にはなりにくい。 これからの名古屋がさらに魅力的な場所となるためには、各エリアにテーマを持たせ、「ここでしかできない体験」を提供することが重要だろう。名古屋の未来は、こうした「らしさ」を模索することで開かれていくのではないだろうか。 ※参考文献 日本ショッピングセンター協会 『SC白書2024 ブレイクスルー ~NEXT SC時代~』(p.54「都道府県・政令指定都市別 SC数・店舗面積」)
杉浦 圭(街歩きライター)