ネタモトがとんでもない極秘情報を教えてくれる時とは
特ダネを狙う記者と情報操作を考える官僚――国民に情報が届くまでに水面下で行われている攻防とは。元外務省主任分析官の佐藤優氏、そして元朝日新聞編集局長の西村陽一氏が、お互いの手の内を明かした『記者と官僚』より、一部抜粋してご紹介します。今すぐには公開できない情報でも、“誰かに知っておいてもらう”ため、信頼する人物に伝える場合があるそうで―― 【書影】33年の攻防を経て、互いの手の内を明かした前代未聞の「答え合わせ」『記者と官僚――特ダネの極意、情報操作の流儀』(著:佐藤 優、西村 陽一) * * * * * * * ◆冷戦終結の内幕を、各国が同一の記者に伝えていた理由 西村 『最高首脳交渉』(ストローブ・タルボット、マイケル・R・ベシュロス、同文書院インターナショナル、1993年)という、当時の政治外交記者の書いた金字塔のような本があります。書いたのは元タイム誌ワシントン支局長で、のちに国務副長官にもなったストローブ・タルボット。 私はアメリカでインド・パキスタンの核開発問題などで何度か取材をしたことがありますが、アメリカのロシアスクール(ロシア専門家)で、若い頃から頭一つ抜けたものすごく優秀な人でした。 オックスフォード大学留学中はのちに大統領となるクリントンと同室で、クリントンにオムレツをつくってもらいながら、フルシチョフのメモワールを翻訳していたという逸話もある。 佐藤 タルボットは、アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所の所長をしていたね。 西村 そう。そのタルボットは当時、ゴルバチョフとブッシュの首脳交渉のすべてを、ほぼリアルタイムで手にしていたんだ。あらゆる機密情報、会談の公式記録、非公式メモを全部。 ただし、すぐに公表してはいけない、情報源については伏せる、という二つの条件があった。彼はそれを忠実に守り、後年になってまとめたのが『最高首脳交渉』。もう一人、歴史学者と共著になってはいるんだけど。 なんでゴルバチョフもブッシュも、ゴルバチョフ政権の外相でありグルジア第2代大統領を務めたエドゥアルド・シェワルナゼも、ブッシュ(父)米政権で国務長官を務めたジェームズ・ベーカーも、国家安全保障問題担当の大統領補佐官を務めたブレント・スコウクロフトも、タルボットに全部渡したのかっていうのが話題になってね。 いろいろ説はあるんだけど、一つの説は、ブッシュの懐刀だったベーカーが、自分が国務長官として絡んだこの交渉を、立派な記録として信頼できる記者に書かせたかった説。 当時、ブッシュは大統領選の再選を狙っていたんだよね。結果的にクリントンに負けちゃうんだけど。そしてベーカー自身、将来の大統領選出馬を狙っていた。そのときの武器として、政治的な野心のために記者に書かせた、と。 ただ、シェワルナゼがなぜ自分たちの外交交渉を全部アメリカの記者に渡したのかはわからなくて、佐藤さんの意見を訊きたかったんだけど。シェワルナゼも自分の将来の担保、保険として何か記録に残そうという、そういう計算があったのかな。