早期発見研究に使われる微粒子

　「エクソソームは近い将来、優れた医薬品になる可能性があるが、まだ研究段階だ。エビデンス（科学的根拠）のない使い方をして深刻な事故が頻発したら取り返しがつかない」――。新薬などの審査を行う医薬品医療機器総合機構（PMDA）で、エクソソームの取り扱いを巡る専門部会の部会長を務めた高倉喜信・京都大名誉教授は危機感を募らせる。

エクソソームの仕組み

　エクソソームとは細胞が放出する直径50～150ナノ・メートル（ナノは10億分の1）ほどの微粒子だ。表面は細胞膜と同じ脂質とたんぱく質でできた膜に覆われた球状のカプセルで、内部には様々な成分が入っている。中でも重要とされるのがマイクロRNAという微小物質。約3000種類あり、細胞の種類や状態によって、がんの増殖や転移を促したり、逆に炎症を抑えたりするなど様々な働きがある。

　血液中を漂うエクソソームを調べて病気の兆候をキャッチしようという研究が盛んだ。京大の福田晃久准教授（消化器内科）らは8月、早期発見が特に難しい膵臓（すいぞう）がんを高い確率で見つけ出す検査法を開発したと発表した。

品質疑わしい「試薬」投与も

　問題になっているのは、抗加齢（アンチエイジング）などの効果をうたい、エクソソームを皮下に注射し老化を抑えるなどの治療を行うクリニックだ。こうしたクリニックでは、利用者が費用を全額負担する「自由診療」で治療が行われており、医師法上は、違法とは言えない。

　だが、エクソソームを集めるために細胞を培養した液には老廃物も含まれ、細菌などが混入すると増殖しやすい。有益なエクソソームだけを抽出し、投与しても問題がない安全な状態にするのは容易ではない。

　現在、医薬品として安全性と有効性が認められ厚労相が承認したエクソソーム製剤はない。それでも治療が行われるのは、研究用などの「試薬」として製造・販売されている製品があるからだ。

　エクソソーム研究の第一人者で日本細胞外小胞学会理事長の落谷孝広・東京医科大特任教授は、「エクソソーム」や「細胞培養上清」を含む試薬として流通している24品目を入手し、成分を分析した。