50歳以上注意

　「手術を受けてからは、トイレを気にせずにぐっすり眠れています」 　9月中旬、神戸百年記念病院（神戸市兵庫区）の泌尿器科を受診した男性Aさん（80歳代、同市在住）は、前立腺肥大症の術後経過を説明した。

前立腺肥大症の治療

　この病気は、男性だけにある前立腺が肥大して尿道を圧迫し、残尿感や頻尿などの排尿障害が起きる。診断を受けていない人を含むと国内の患者は推計400万人以上。恥ずかしさから受診をためらう人も多い。発症原因には加齢によるホルモンバランスの変化などが挙げられ、50歳以上の男性は特に注意が必要だ。

22年に保険適用

　Aさんが不調に気づいたのは20年前。一度の排尿量が減って勢いが弱まり、トイレの回数が増えた。徐々に違和感が強まり、2016年、前立腺肥大症と診断された。症状を抑える薬を服用したが、23年には就寝時に1時間ごとに尿意で目覚めるまでに悪化した。 　症状の改善を目指し、同年12月、Aさんは「経尿道的水蒸気（WAVE）治療」を受けた。内視鏡手術の一つで、22年に公的医療保険の対象となった治療法だ。

　手術では、筒状の医療器具を尿道に通し、先端部の針から高温（103度）の水蒸気を噴射し、肥大した組織を壊死（えし）させる。麻酔は必要だが、手術は10分ほどで終わる。出血が少なく、高齢者や持病がある人も受けやすい。 　術後は患部が腫れるため排尿用のカテーテルを一定期間、入れる必要がある。壊死した組織が体内で吸収され、尿道が広がるまでに1～3か月かかる。Aさんの場合、約1か月で効果が表れ、排尿がスムーズになったといい、「利尿作用が強いビールを飲んだ夜でも、トイレで起きるのは多くて2回。安心して眠れるようになった」と喜ぶ。

　主治医の森下真一・泌尿器科部長は「当院では数日間の入院でWAVE治療を受けられ、日常への復帰も早い。手術で頻尿などの症状を解消できれば、生活の質の改善が見込める」と意義を語る。（藤沢一紀）