高齢者の自動車事故、実は10年間で「減っている」? 不安をあおる“データの一面”では見えない高齢者の実態
高齢者の自動車事故や認知症…本当に増えているのか?
他にも、「高齢者の自動車事故や認知症が増えている」という報道がされますが、そもそも高齢者の数が増えているわけですから、それらの数が増えるのは当たり前です。でも、データをよく見てみると印象が変わります。 高齢者の自動車事故について、「免許保有者10万人当たりの事故件数」(警視庁「令和5年中の交通事故の発生状況」)を見てみると、85歳以上の事故件数は2013年から2023年の10年間で、約900件から約500件と大きく減っています。65歳以上の他の年代も、おおよそ同じような割合で減少しています。 ただし、死亡事故を起こす割合は、75歳以上になると10万人当たり5.3件と、16~24歳の若い年代(10万人当たり4.3件)を上回っているので、正確にいえば、「高齢者が自動車事故を起こす割合は減ってきているが、75歳以上になると死亡事故を起こす割合が若年層よりやや高くなる」ということです。 「2022年、厚生労働省の推計で、65歳以上の高齢者における認知症有病者数は443万人となっている。2030年には523万人に上る」と言われてもピンと来ませんし、軽度の認知症の人数も合計して数字を大きくすることによって、危機感をあおっているだけのように見えます。それよりも、「高齢者認知症の有病率は約15%。ただし、重度や中等度はそのうち半分程度である」と言われる方が分かりやすいですし、むやみに不安になることはないはずです。 さらに、「欧米では、過去数十年間で認知症の有病率が2~6割、発症率が2~4割低下したという調査がある」といった事実も付け加えてもらえれば、元気にもなります。認知症をただ恐れるのではなく、生活習慣を見直して予防するといった前向きな姿勢も生まれるでしょう。 私たちは、行政や有識者が発表したり、大企業が広告で使ったりするデータをつい、うのみにしてしまいがちですが、それらは調査全体の一部であり、一面です。例えば、「要介護高齢者が増えている」のも「80代前半では、要介護2以上の人は1割ちょっとしかいない」のも事実ですが、前者のデータだけ知らされると、「それは大変だ」としか思えなくなります。近年、特に高齢者関連についてはネガティブな発表のされ方、使われ方が目に付くので、データの受け止め方には気を付ける必要がありそうです。
NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕