患者はどうつき合う? 医者の本音とリアル 松永正訓
では、なぜいまだに風邪に抗生剤を出すのでしょうか。抗生剤を歓迎する患者さんがいることも事実です。僕も、一部の患者さんは薬をたくさん出すほうが喜ぶ傾向にあるように感じます。また医者の側からいうと、薬を多く出すとあたかも熱心に、ベストを尽くしたように見えることから、それを実践する人もいます。 ただそれ以上の問題は、患者さんとのコミュニケーションを抗生剤を出すことで省略している医者がいることです。「風邪で抗生物質を出してほしい」と望む患者さんに、いかに抗生剤が不要かを説明するのは、時間もかかるし、骨も折れる作業です。でも本来は、それが医者の使命なのです。 Q 薬を出せば出すほど、医者は儲(もう)かるんですか? A 昭和の医療には「薬漬け」という言葉がありました。当時の診療所は院内に薬局を併設しているところが多く、「薬価差益」といって、薬の仕入れ価格と、処方したときの公定価格の差で儲けようとしていたのです。処方すればするほど儲かる仕組みです。 でも現在は、医薬も分業が進み、院内処方よりも院外処方のほうが医療報酬が高いので、新規に開業するクリニックで院内薬局を併設するところはかなり減っています。さらに医者が薬をたくさん出すのを抑えるために、いまは薬を7種類以上出すと診療報酬を減額される、つまりたくさん出すと損になります。だから近年は、不要な薬をむやみに出す医者はかなり減っているはずです。 Q 検査を病院に勧められたら、やるべきですか。不要な検査はありますか。 A 薬漬けはなくなりましたが、無駄な検査はまだあるのではないかと思っています。例えば子どもが離乳食を始める前に、血液検査で食物アレルギーの有無を調べる必要があると思っているお母さまがいます。これは、基本的に間違いです。血液検査をしても食物アレルギーの予測はつかないからです。こうした検査を積極的にやっている医者もいると聞きますが、正直、問題があると言わざるを得ません。子どもにとって採血は怖いし、痛いもの。しかも医療費も高額で、本当に意味のない検査の代表です。