患者はどうつき合う? 医者の本音とリアル 松永正訓
◇医者と薬 Q いつも行くクリニックが休みでした。常用している薬が切れてしまったので、薬だけもらいに他の医院に行ってもいいですか? A 私のクリニックにアレルギー性鼻炎の患者さんがいらっしゃいました。その人は、「いつもA薬を飲んでいるから、それを出してください。長年、かかりつけ医と試行錯誤しながらようやく辿(たど)り着いた薬なので、それでなければダメなんです」と言います。抗ヒスタミン剤には多くの薬があり、僕のクリニックで処方しているのはB薬でした。なぜ各製薬メーカーが競い合って抗ヒスタミン剤を出しているかといえば、逆に決定的に優れたものがないからなのです。 僕のクリニックでは電子カルテを使っているので、普段、処方していない薬を出すには、サーバーの奥にある巨大な薬品箱にアクセスし、手続きしなければなりません。その作業は、実はかなりの手間がかかります。特殊な薬ではない限り、頼めばその薬を出してくれると患者さんは思うかもしれませんが、それは誤解です。あらゆる薬を用意しているクリニックはないですし、それは大学病院も同じで、驚くほどポピュラーな薬がないこともあります。そういったさまざまな理由で、初めて来た患者さんに「〇〇の薬をください」と言われたら正直、萎えます。クリニックは、ドラッグストアではないのです。医者が診察をする場所なのです。 Q 風邪に抗生物質は効かないと聞きますが、この前、風邪で病院に行ったら、先生から抗生物質を処方されて、飲むべきか迷いました。 A 最近はさすがに減りましたが、「抗生剤を処方してください」と言う患者さんや家族の方がまだいるのも事実です。2014年の東北大学の調査では、日本人の約半数が「風邪に抗生剤は無効」と知っているそうです。でも逆に言えば、半数はまだ知らないということになります。 抗生剤は風邪に効かないだけでなく、害すらあります。抗生剤を飲むと、体内に耐性菌が増えます。それにより、従来の抗菌薬が効かない変異した菌が生まれてしまうのです。こういった抗生剤乱用による耐性菌の増加はいま、世界的に問題になっています。