出演約40本、隠れたCM女王の44歳女優…小2で目覚めた「人の心を動かす」喜び 原動力は5歳の長女
キャリア20年の幸田尚子
時にコミカルに、時に妖艶な美女を演じてきたバイプレーヤーの幸田尚子(44)。大学で舞台芸術を学び、無名塾からキャリアをスタートして20年が経った。劇団や舞台でのキャリアを重ねながら、数多くのドラマ、映画、CMに出演。1児の母でもある幸田にこれまでの歩み、演技への思いを聞いた。(取材・文=一木悠造) 【動画】ビールのCMで奈緒と共演 驚がくの表情で演じる幸田尚子 俳優活動20年。24歳からキャリアを重ねてきた幸田は、小学2年で初めて“演技”をしたことを明確に覚えていた。 「私は子スズメが庭に落ちていたので、保護しました。冬だったからフカフカの敷物を即製の鳥かごに入れ、暖かくしてあげました。ただ、翌朝に確認すると、その子スズメはかごの中で死んでいました。私は大号泣しました。重い足で学校に着くと、そのことを大勢の友達の前で状況の再現も入れて話したんです。『温めたりしてあげたんだけど、朝起きたら死んじゃっていたの…』と。ふと見ると、友達の全員が泣いていました。自分が体験した気持ちとか感情を思い出し、再現することで友達が共感して泣いてくれた…。それがとても衝撃的で、私にとって演じることのルーツになりました。以降、演技に興味を持ち、小5の時には、宝塚を見てめちゃくちゃ感動しました。時には立ち上がれないぐらい泣き、『私も舞台に立ちたい』と心から思いました」 中学、高校は演劇部で活動。大阪芸術大の舞台芸術学科に進学してからは、演技漬けの日々を送った。そして、卒業後に仲代達矢が主宰し、数多くの有名俳優を輩出している無名塾の門をたたいた。 「オーディションを受けて入塾した無名塾での日々は、無我夢中でした。ただ、いろいろありまして、そこを去ることになりました。でも、志があったら食いついたと思うし、跳ねのけることもできたと思うんです。この時に『逃げてしまったこと』は今でも悔いています。『チャンスは10年に1回しか来ないから、怖いと思った時はチャンスだ』『とにかく飛び込んでしまえば良かったんだな』って」 幸田はその後、劇団クロムモリブデンに入った。演出家の青木秀樹氏が率いるコメディーを中心とした演劇集団で、メンバーの個性と演技力は強烈。幸田もすぐに心を打たれたという。 「役者の皆さん一人ひとり、『この人たちって何でこんなことができるんだろう』って心底思いました。『今の私にはできないけど、やれるようになりたい』と。裸一貫で笑いをたくさん取り、去っていく。そんなクロムの空気感がものすごく私に刺さったんです」 クロムで自分の核を見つけた幸田はクロムを卒業後、ある劇団に移籍する。その劇団で出会ったのが「戦友」となった中丸シオンさん(2022年夏に逝去)だった。 「シオンとは、CMの現場で知り合い、これもまた偶然に演出家のG2さん率いる劇団・モジリ兄とヘミングにて同じ劇団員になりました。コンビを組んでお笑い番組のオーディションも受けたりしたんですが、彼女は私を一番応援してくれている人でした。そして、彼女が亡くなってから『私が面白いことをやろうとしていた原動力は、シオンだった』と気づきました。シオンが笑ってくれるかどうかが大事でしたし、私が出る作品が完成したら、『あなた最高よ。笑いが止まんないわ』と言ってくれる存在でした。だから、突然いなくなってしまって、自分が何のために演技をやるのか分からなくもなりましたが、1年が経ち、やっとお墓に行く決心ができました。シオンに『尚子さん、そろそろ私にかっこいいところ見せてよ』と言われた感じがして。私も『シオン見とけよ。かっこいいところ見せてやるよ』っていう感じで」 幸田は隠れた「CM女王」でもあり、出演CM約40本で飛躍のきっかけもCMだった。まず、スーパーマーマーケットのCMで主婦ダンサーズの一員としてコミカルに踊る姿が、業界関係者の目に留まった。軽自動車のCMでは人気俳優とカップル役を演じ、ユニークな表情が話題になった。一方で、その美貌から「いい女系」の役もドラマ、映画、舞台で演じ続けている。 「真正面から演じることも好きなんですけど、『人を笑わせたい』という思いが強いのは、クロムでの経験が大きいですね。自分の中では竹中直人さんみたいな人が『いいな』って思っています。竹中さん的な笑いの感覚の方が素の自分にフィットするからです。黒柳徹子さんも理想の方です。めちゃくちゃ頭が良くて、ちょっとふざけつつもベールを常に被っていて、シャイなんだけど、急にバンって自分の扉を開けてさらけ出す。そんなところにすごく憧れています」 プライベートでは、再婚した俳優で演出家の夫との間に5歳の長女がいる。娘の存在は、幸田の原動力になっているという。 「私は夫が手掛ける作品の演出をフォローしていますし、子育てでも助け合ってやっています。娘も私の俳優の仕事に興味を持っていてくれていて、時折ドキッとするような感想を言ってくれます。なので、私自身が刺激を受けて『しっかりやらなきゃ』となっていますね。家族愛つながりで言うと、20年以上演技をやっていて誰かと出会って恋愛できるとかそういうことじゃなくて、感覚として人間の根底にある『愛されたい、愛したい』とか、人と人が互いに求めるもの、それが恋愛の本質だと思っています。私が考える恋愛と演技をすることって何となく似ていると思います」