《曙が荷物と共に夜逃げ》《幻のタイソンvs.ボブ・サップ》…珍事件だらけの「'03年大晦日興行戦争」舞台裏
かつて視聴率80%を超えた国民的番組「紅白歌合戦」が格闘技に数字で負けた「歴史的4分間」があった。その知られざる舞台裏を、12月19日刊行の『格闘技が紅白に勝った日 2003年大晦日興行戦争の記録』(細田昌志著、講談社刊)からお届けする。 【写真】《曙vs.ボブ・サップ》格闘技が紅白歌合戦に勝った「伝説の4分間」 細田昌志(ノンフィクション作家)/'71年生まれ。『沢村忠に真空を飛ばせた男』(新潮社)が第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞、『力道山未亡人』(小学館)が第30回小学館ノンフィクション大賞を受賞
民放3局が格闘技中継を放映
視聴率調査会社のビデオリサーチが1分間ごとの瞬間最高視聴率、通称「毎分」の計測に力を入れるようになったのは、テレビのリモコンが普及した1985年以降である。 リモコンの普及はテレビ番組を本質的に変えた。「じっくり見るもの」から「わかりやすいもの」が重宝されるようになったが、「オールドメディア」と揶揄され、YouTubeやTikTokに猛追されるテレビ業界の現状を鑑みると皮肉な気がしないでもない。 それでも年末ともなれば『NHK紅白歌合戦』に関する情報が話柄の中心となり、豪華特番が耳目を惹くことを思うと、メディアにおけるテレビの優位性が揺らぐ様子はない。 そんな師走のテレビ業界において、21年前、歴史を塗り替える事件が起きた。紅白歌合戦の真裏の民放3局が、揃いも揃って格闘技中継を放映したのだ。TBSは『K‒1 Dynamite!!』(K‒1)、日本テレビは『イノキボンバイエ2003~馬鹿になれ 夢をもて~』(猪木祭)、フジテレビは『PRIDE SPECIAL 男祭り2003』(PRIDE)である。 しかし、事件はこれだけでは終わらなかった。K‒1を中継したTBSは、23時から23時3分までの4分間「毎分」において紅白の視聴率を抜くという、テレビ始まって以来の快挙を成し遂げたのだ。 なぜ、K‒1は紅白の視聴率を抜いたのか、なぜ、民放3局はいずれも格闘技番組を中継したのか。そもそも、元横綱の曙太郎はどういったいきさつからK‒1のリングに立ったのか。これらの疑問を、あらゆる角度から探ってみたいと思う。