NY地下鉄の川崎製車両、59年ぶりの貫通路復活は「超非常識行動」対策
【汐留鉄道倶楽部】アメリカの主要都市ニューヨークの地下鉄で、車両同士の間を行き来できる貫通路を59年ぶりに復活させた川崎重工業グループ製の新型車両が2月に登場した。長い“封印”を解いて貫通路を復活させた背景には、一部の「超非常識行動」への対策という狙いがあった。 【写真】還暦で現役復帰したお宝電車
▽型式名は「R211T」 新型車両の型式名は「R211T」。川崎重工が最大で1612両を納入する契約を結んだステンレス製車両「R211」のうち貫通路を備えたタイプだ。ニューヨーク中心部マンハッタンの北部のハーレム地区にある168丁目駅と、イースト川を挟んでマンハッタンの対岸にあるブルックリン地区のユークリッド通り駅を結ぶ路線「C系統」で2月1日に営業運転が始まった。 1編成には全長18・4メートルの車両を5両つないでおり、これらの車両同士をつなぐ4カ所の連結部分に「オープンギャングウェイ」(Open Gangway)と呼ばれる周囲を覆った貫通路を設けた。 現在は4編成が導入されており、都市圏交通公社(MTA)は2編成を連結した10両の電車を2本運行している。編成同士の連結部分には乗務員室があるため、利用者は通り抜けできない。 貫通路は、日本では2両以上をつないだ旅客用車両で一般的に見られる。これに対してニューヨークの地下鉄では、MTAの前身企業の一つが1965年まで運行していた車両が最後だった。
その後の車両はいずれも連結部分に非常時の脱出用扉を設け、火災発生といった非常時を除いて通り抜けを禁じてきた。2023年3月に営業運転が始まったR211の従来型車両「R211A」も連結部分に脱出用扉を設けている。 ▽狙いは「地下鉄サーフィン」抑止 MTAがR211Tで59年ぶりに貫通路を復活させた背景を、米NBCテレビは「地下鉄サーフィンという危険な行動を抑止できる」と解説した。 ニューヨークの地下鉄では「車両間の乗車や移動の禁止」と記した表示を無視して脱出用扉を通り、主に地上区間を走る際に連結部分から屋根によじ登ってサーフィンのような姿勢を取る「地下鉄サーフィン」が問題化している。地下鉄は線路の脇にある第三軌条から電気を取り込んでいるため架線はないものの、地下鉄サーフィンをしている最中にトンネルや橋にぶつかるなどして転落し、死傷する若者が相次いでいる。 MTAによると、地下鉄サーフィンによって23年に少なくとも5人が死亡し、今年1月にも14歳の少年が命を落とした。MTAは車内や駅構内での放送や案内表示で地下鉄サーフィンの危険性を警告するキャンペーンを23年9月に始めたが、「地下鉄の屋根の上に乗っている若者を依然見かける」(ニューヨーク市民)と事態は深刻だ。