NY地下鉄の川崎製車両、59年ぶりの貫通路復活は「超非常識行動」対策
これがR211Tならば貫通路の部分を幌(ほろ)で覆っているため屋根に上がりにくく、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は「広がっている地下鉄サーフィンのために若者が犠牲になるのを防ぐことができる」と安全性向上に期待を寄せる。 MTAのジャノ・リーバー最高経営責任者(CEO)も「購入する車両は最も革新的な設計でなければならない」と貫通路を採用したことに自信を示した。 ▽“万能薬”にならない理由 私もC系統で運用が始まったR211Tに早速乗り、貫通路近くの座席に陣取った。流行に敏感な人が多いニューヨークの地下鉄の最先端車両とあって注目度が高く、スマートフォンで動画を撮影しながら貫通路を通り抜ける人たちを見かけた。追いかけっこをする子どもたちも、「お金を恵んでほしい」と他の乗客に乞うている人も、貫通路をスムーズに通り抜けて次の車両へ向かった。 ただ、R211Tは課題解決の“万能薬”ではない。関係筋は「現行のMTAの規則では(一部の駅を通過する)急行電車としては運用できない」との難点を指摘する。
MTAの規則では走行中に非常ブレーキが作動した場合、運転士は電車の両側を歩いて点検するか、それが難しい急行電車用の通過線では車両の連結部分から線路上を点検することを義務づけている。 しかし、R211Tは貫通路を幌で覆っているため、車両同士の間から点検することができない。このため急行電車には使えず、導入したのは各駅停車のC系統になった。 R211を順次追加発注しているMTAは、運用の結果などを踏まえて今後導入する437両を貫通路のあるR211Tにするか、それとも従来型の脱出用扉を設けたR211Aを採用するかを決めると説明している。 復活した貫通路を備えた車両が広がって軌道に乗るのか、はたまた追加導入を見送ってR211Tは乗れればラッキーな「レア車両」との位置付けとなるのか。先の行方は貫通路のようには見通せない。 ☆共同通信・大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)ワシントン支局次長。ニューヨーク支局駐在中の2016年にR211の発注先メーカーを決める入札に川崎重工業が参加する方針を固めたことを最初に報じ、ワシントン支局に着任後に営業運転が始まったR211に親しみを感じている。