急増する新興感染症 天敵なき地で猛威ふるう侵略的外来生物としての病原体
経済優先策が阻む感染症予防
2014年にアフリカ西部でエボラ出血熱が猛威をふるい、1万人以上の死者が発生、さらにヨーロッパでも患者が確認されたことで世界中にこの病気が広がるのではないかと恐れられました。このとき、感染の中心地であったシエラレオネの病院に務めるウマル・カーン医師が、懸命に患者の治療に当たりながら、政府に対して、感染が確認された街の道路を封鎖して感染拡大を防ぐよう訴えたが、経済が滞ることを理由に、進言は受け入れられず、結局、被害が拡大してしまった、というエピソードは有名です。またこのとき、アメリカ国立衛生研究所や国務省にも支援が要求されていましたが、当時はワールドカップに世界中が熱狂していて、アフリカからの声に耳を傾ける人がほとんどいなかったために、さらに対策が遅れました。 最近、日本でも話題になっているジカ熱ウイルスは、蚊が媒介する病原体で、ブラジルをはじめ南米で流行が拡大しており、今夏、リオデジャネイロで開催される五輪を契機として、世界中に感染が拡大するのではないかと危惧されています。これに対して6月14日に開催されたWHOの緊急委員会で、五輪開催期間は開催地リオの冬(乾期)にあたり、蚊の成虫もほとんどいなくなることから、五輪でジカ熱が世界に広がるリスクは低いとして、開催延期の必要はないとの声明を発表しました。 しかし、ブラジルは広大であり、マナウスなどの人気の観光地には年中蚊が生息します。またリオの8月中の平均気温も20℃近くあることから、都市部で蚊が生き残る可能性はゼロではなく、決して100%の安全が担保された訳ではないと考えるべきでしょう。ちなみにジカ熱ウィルスもアフリカ原産で、ブラジルには2013年のコンフェデレーションカップの年に侵入したと推測されています。 グローバリゼーション・温暖化・都市化という環境変動が著しい現代においては、いつ、どこからでも病原体は侵入して、流行し得る、と捉えて、国だけではなく個々人で予防策をたてることが必要です。 【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)