今まで誰も気づかなかった…世界的に有名な蝶の「はね」に隠された驚きの「新事実」
---------- 子どもの頃、網を持って、必死に蝶を追いかけたという方もいるのではないでしょうか。鮮やかな色の翅(はね)に多くの子どもたちが目を輝かせたものです。しかし、その鮮やかな色には、私たちの知らない「秘密」がずっと隠され続けてきました。一体、その秘密とは何なのか。2023年に「蝶の翅」に関する驚きの新事実が発表されました。発見者、探検昆虫学者の西田賢司さんが解説します。わたしたちの身の回りに広がる小さな昆虫たちの小宇宙。そこには人間たちがまだ知らない、驚きの世界が広がっているのです! ---------- 【写真】 ミドリタテハとアサギドクチョウってどんな蝶?
世界でも人気のある目立つ蝶
タテハチョウ科のミドリタテハとアサギドクチョウ*は中南米を代表する蝶で、一般の人たちにも人気がある。ネット検索すると、この蝶たちの画像や動画が多数ヒットする。日本で言うと、アゲハチョウ的な身近な存在で大きさもほぼ同じ。蝶の本の表紙、多国の切手にもデザインとして使われ、さらに日本のジャポニカ学習帳の表紙も飾ったことがある。 しかも中南米の蝶園で多数飼育繁殖され、蛹は世界各国の昆虫館や博物館へと輸出されて生息地以外でも身近に見られる蝶なのである。しかし、たくさんの情報が溢れる中、ここで紹介する事実は近年まで誰も気づいていなかった。 *現在10種のアサギドクチョウが確認されていて、基本的な緑の色彩はここで紹介する種(Philaethria diatonica )とどれも同じである。
蝶の翅の構造
蝶の翅の多彩な色や模様には心惹かれる。翅には飛翔機能以外にも役割があって、例を挙げると、オスとメスの性的な惹き合い、「美味しくない、毒性が強いよ」のアピールの警戒色、体温を上げたり下げたりするパネルのような体温調節機能、擬態し合ったり隠蔽色的なカムフラージュだったりとさまざまである。これまでに世界でおおよそ17000種の蝶が記録されていて、分類や系統、体系学以外に行動や翅の色や色彩パターンの研究が進む。昆虫学界でも人気のあるグループだ。 蝶の翅の基礎構造の薄い膜は通常透明から半透明の無色で、厚みは0.01ミリメートル程度、キチン質のクチクラ(キューティクルともいう=生物の体表を覆う膜。節足動物では外骨格を形成する)でできている。 さまざまな色や模様は薄膜を覆う無数の鱗粉で表現される。それは、あの蛾や蝶の「触るとスグに剥がれ舞い飛ぶ粉」だ。鱗粉一つひとつもキチン質のクチクラで出来ていて、厚みは数マイクロメートル(1000分の数ミリ)程度。鱗粉による色の表現は鱗粉細胞内にある色素によるもので、金属色の場合はマイクロ~ナノサイズの鱗粉表面(層)構造による光の干渉、もしくはこれら両者の組み合わせによるものが基本となる。ただ例外として翅の薄膜自体に色素が組み込まれている蝶もいる。 アオスジアゲハの仲間がそうである。あの緑がかった水色は、薄膜に色素が沈着して表現されている。すなわち翅の色や模様は、薄膜の構造、鱗粉の色の組み合わせ、それぞれの鱗粉の形状と大きさ、配置や数などによって複雑に表現されている。 しかし、今回、このようなかたちで表現されていない「蝶の翅の色表現メカニズム」が発見された(ぼくが気づいただけのことなんだが……生きているものに目を向け、満ち溢れた興味や関心、疑問を持って、向き合うことで、死んで動かず変化が少ない標本からは得られない多様な情報が得られることは確かだ。今回の発見に至ったのも「生きているからこそ」であった)。