日本人はなぜ食器を持ち上げて食べる? 気をつけたい食事のマナー 上げて良い器とNGな器とは
日本では食事の際に、ごはんが入ったお茶碗やみそ汁のお椀を、胸元まで持ち上げて食べます。当たり前の動作に感じますが、食器を持ち上げて食べることは世界的に珍しいようです。なぜ食器を持ち上げて食べるのでしょうか。また、持ち上げるとマナー違反になる器とは? いまさら聞けない和食の食器マナーについて、栄養士で元家庭科教諭の和漢歩実さんに伺いました。 【画像】知らないと恥? 食事をするときの箸のタブー ◇ ◇ ◇
ごはんや汁物の器は持ち上げて食べてOK
和食の基本は、ごはんに一汁三菜。食べる際、手で持ち上げる器と持ち上げてはいけない器があります。ごはんが入ったお茶碗や汁物のお椀は、持ち上げて食べるのがマナーです。しかし、そのほかの器で、食べる際に持ち上げて良いものか判断に迷うこともあるかもしれません。 器を持ち上げて良いかどうかの基準は、そのサイズにあります。器が手のひらよりも小さければ「持ち上げて良い器」です。漬け物皿やしょうゆ皿なども、食べる際は持ち上げて問題ありません。 一方で、手のひらよりも大きなものは「持ち上げなくても良い器」です。主菜などが盛りつけられた平皿は、持ち上げずに食べましょう。ただし、例外としてカツ丼や海鮮丼、うな重など、一人前のごはんや汁物が入ったどんぶり、お重などは持ち上げて食べてもマナー違反ではありません。むしろ、持ち上げず前屈みになって食べるほうがマナー違反です。 ○持ち上げて良い器 茶碗、汁椀、一人用のお重、どんぶり、小皿、小鉢、しょうゆ皿など ○持ち上げなくて良い器 主菜の中皿や中鉢、数人盛りの大きな器、大きくて熱い麺類の器など 大皿料理などで食べにくい場合は、いったん取り皿に移してから、手に持って食べるようにすると良いでしょう。
日本独自の文化的背景が理由
器を持ち上げて食べるのは、西洋など外国において珍しい習慣です。西洋では、食器をテーブルに置いたまま食べるのが一般的で、器を持ち上げることはマナー違反とされています。なぜ日本人が食べる際に器を持ち上げるようになったのかについては、文化的な背景が存在しているといえそうです。 理由のひとつとして考えられるのは、たたみ文化です。昔の日本は、たたみの上に正座し、お膳に料理を並べて食べる食事スタイルでした。お膳が使われた理由は諸説ありますが、狭い家でも食事の場所が確保できて片づけやすかったこと、テーブルを置くよりたたみを傷つける心配がなかったことが挙げられます。 しかし、お膳が低かったため、そのままの状態で食べ物をこぼさずに箸で口まで運ぶことは大変でした。そこで、手のひらに収まる器を胸元まで持ち上げて食べることが、自然な動作になったといわれています。 一方、テーブルの上に食器を並べ、ナイフやフォークを使って食事をする西洋では、持ち上げる必要がありません。その違いが、食事スタイルのマナーの差につながっているのでしょう。
和食の配膳の基本 ごはんは向かって手前左、主菜は奥の右
一汁三菜の和食。正しい配膳は、向かって左手前にごはん茶碗、右手前に汁物の椀、右奥に主菜、左奥に煮物などの副菜です。漬け物やおひたしなどは真ん中に置きます。箸を右手に持つことが前提で、器を持ち上げる必要がない主菜が右の奥にあるのは合理的でしょう。また、ごはんを左手前に配置することで茶碗が持ちやすく、右手の動作もスムーズになります。 日々の食事で、和食の配膳や器の持ち上げなどを意識する機会は少なくなっているかもしれません。しかし、こうした作法には、昔から受け継がれてきた文化が詰まっています。時には食文化を大切にして、よりいっそう、日常の食事を楽しんでみてはいかがでしょうか。
Hint-Pot編集部