トランプ氏弾劾へ調査開始 「ウクライナ疑惑」主要関係者を整理する
トランプ氏、そしてバイデン氏、来年の大統領選への影響は?
このまま弾劾に向けた調査が進み、トランプ大統領の行為が弾劾に値すると下院情報委員会が判断した場合、下院議長は下院司法委員会に弾劾審問を委ねるか、新たに特別委員会を設置するかを決めることができる。このプロセスを経て、米議会下院がトランプ大統領に対する弾劾訴追を可決すると、次に行われるのが上院での弾劾裁判だ。ホワイトハウスはすでに「弾劾に向けての調査には協力しない」と表明しているが、民主党サイドは調査を継続しており、弾劾裁判の年内実施が現実味を帯びてきた。下院で弾劾訴追される可能性は高いが、上院での弾劾裁判では3分の2以上が賛成しなければ大統領の解任は行われない。上院は現在、全100議席のうち共和党が53議席、民主党が45議席(無所属系含む)という議席構成のため、現実的には多くの共和党議員の造反がない限りは「無罪」と判断される。 アメリカではこれまで2人の大統領が下院で弾劾訴追をされたが、上院では無罪判定となり、大統領職を継続している。不倫スキャンダルで弾劾訴追されたクリントン元大統領(1993~2001年)も、弾劾裁判を首の皮一枚で乗り切っている。ウォーターゲート事件で有名なニクソン元大統領(1969~74年)は、弾劾に向けた調査が行われている最中に辞任を発表している。はたしてトランプ氏は弾劾訴追される3人目の大統領となるのか、もしくは弾劾裁判で有罪となる初の大統領となるのか。どのような結果になっても、来年に入ればすぐに大統領選がスタートする。トランプ大統領が非常に厳しい選挙戦を強いられるのは必至だ。 来年の大統領選で、当初想定していた有利な選挙戦を展開できなくなる可能性で言えば、民主党のバイデン前副大統領にとっても茨の道となる。次男ハンター氏のウクライナ企業との結びつきそのものは違法ではないという見方はあるものの、2016年にウクライナ政府に要求した「司法改革」が圧力ではなかったかという疑問は残る。また、アムトラックやブリスマ社でハンター氏が役員を務めることができたのは父親であるバイデン氏の影響以外の何物でもなく、いわゆる「上級国民」ぶりを支持者はどう見るだろうか。民主党では格差社会の拡大に警鐘を鳴らすウォーレン氏やサンダース氏のような、社会主義的な政策を掲げる候補への支持が高まっており、バイデン家に対する風当たりは強くなるだろう。
------------------------------ ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う