トランプ氏弾劾へ調査開始 「ウクライナ疑惑」主要関係者を整理する
来年11月に大統領選を控えるアメリカで、続投を目指すトランプ大統領の政治生命が断たれかねない疑惑が急浮上した。トランプ氏をめぐっては、2016年の米大統領選におけるロシア政府の介入疑惑に関与したのではないかという疑いが就任前から取りざたされ、これまでも何度か野党・民主党が弾劾に向けてアクションを起こすのではないかという見方が強かった。この俗にいう「ロシアゲート」では政治生命の終焉を回避したかに見えたトランプ大統領だが、民主党のペロシ下院議長が先月24日、突如としてトランプ大統領に対する正式な弾劾調査を開始すると発表したことで状況は一変した。きっかけはロシアの選挙介入ではなく、皮肉にもロシアの隣国ウクライナの新大統領との電話会談であった。 【図解】強くて実は脆いアメリカ大統領 「弾劾」に必要なプロセスとは?
ライバルのバイデン氏情報得るためにウクライナに圧力?
民主党の重鎮として知られるペロシ下院議長が、トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との間で交わされた電話会談の内容を問題視し、弾劾に向けた調査を開始すると先月24日に発表して以降、トランプ大統領は弾劾に関する記者の質問に対して非常に神経質になっている。「ロシアゲート」以上の深刻さが大統領自身の反応からも垣間見える。ペロシ議長は弾劾に向けて正式に動き出した理由として、トランプ大統領が合衆国憲法で定められたルールに違反したことを挙げている。 問題となったのは、今年7月25日の電話会談だ。この中でトランプ大統領はゼレンスキー大統領に対し、米民主党のバイデン前副大統領に関する情報提供を求め、その見返りとして兵器の売却や経済援助を申し出たとされている。具体的には、バイデン氏の次男に関する情報提供を要求したという。この会話の内容が、8月に匿名の内部告発者によって告発状として下院情報委員会に提出され、9月26日に告発状の内容が公開された。告発状は複数の政権関係者の証言をまとめた内容となっており、7月25日の電話会談でトランプ大統領が個人的な利益のためにウクライナに圧力をかけたと結論付けている。 来年の大統領選挙での再選を目指すトランプ大統領にとって、最大のライバルとなる可能性が高いバイデン氏。そのバイデン氏に対して政治的な致命傷を与えるための情報を是が非でも入手したかったトランプ大統領は、ウクライナのガス会社に役員という肩書で籍を置き、日本円にして年間6000万円近くを手にしていたとされるバイデン家の次男ハンター氏に関する情報や、ウクライナ国内で長年にわたって汚職の温床とされてきたこのガス会社に対するウクライナ検察の捜査に当時アメリカ副大統領だったバイデン氏本人が圧力をかけた疑惑について、ゼレンスキー大統領に電話口で情報提供を直接求めたとされている。 エリザベス・ウォーレン氏やバーニー・サンダース氏(1日に心筋梗塞を起こし入院。3日に退院したものの選挙活動を「一時休止」)に加えた数名の若手候補者が、来年初めからスタートする民主党の大統領候補の予備選挙で激しい戦いを繰り広げるとみられている。バイデン氏は76歳という高齢にもかかわらず、現在までに行われてきた支持率調査では民主党の大統領候補として指名を受ける可能性が最も高い候補者の一人で、トランプ大統領にとってバイデン陣営にダメージを与え得る情報は、それだけで価値があるのだ。 しかし、選挙の勝利という個人的な目的のために、大統領の権限を使って他国から情報を収集しようとしたことで、トランプ大統領は自らの首を絞めることとなった。 「ウクライナ疑惑」に関係する人物は多く、それが話を複雑なものにしているが、本稿では主要な登場人物を4つのカテゴリーに分けて紹介したい。弾劾を見据えた攻防が今後も報じられるであろうこの問題を理解する上での助けとなればと思う。