1日5食。渡利が12kg増量を乗り越え五輪枠獲得!
日本の女子レスリングが全6階級のうち唯一、五輪出場権利を獲得できていなかった75kg級にリオ五輪への切符をもたらしたのは、この階級では他の選手よりも、頭一つ小さい、163cmの渡利璃穏(24、アイシン)だった。1年前は女子63kg級でリオ五輪出場を目指していた渡利が12kgも重い2階級上の75kg級にチャレンジするのは、無茶なこと。彼女は、なぜ、常識外れの夢を追いかけることになったのか。 昨年9月の世界選手権で、日本女子は5階級でリオ五輪の出場権を獲得、渡利の階級である63kg級では、高校、大学の後輩にあたる川井梨紗子(21、至学館大学)が2位となり、五輪出場をほぼ確実にしていた。このとき、渡利はリオ五輪へ選手として行くのは無理になったと絶望していた。ところが、学生時代の恩師であり、女子代表監督でもある栄和人氏から2階級アップして75kg級でチャレンジすることを薦められた。 体重で階級を決めている競技の場合、減量についてはよく話題になるが、増量問題を耳にすることは少ない。しかし日本の女子レスリングの場合、体重を増やすことに苦労している選手が少なくない。たとえば53kg級の吉田沙保里(33、TAGインターナショナル)と58kg級の伊調馨(31、ALSOK)は、いつも体重が「足りなくなる」悩みを抱えている。共通するのは、世界一といわれる強度の長時間練習にくらべ「普通」の食事量だ。 彼女たちは普段のマット練習を終えると、2~3kgの体重を減らす毎日を送っているが、食べる食事量は驚くほど普通だ。練習に疲れて食欲がわかないことも珍しくない。なかには吉田のように食が細いのが悩みの種だという選手もいる。本人としては努力して多く食事をとっていても、練習のたびに簡単に減る体重を補うのが精一杯で、増量にまでこぎ着けられない。渡利も同じ状態に苦しみながら、75kg級に変更する決断を信じて、どんなに時間がかかっても食事量を増やすことにこだわった。 苦労の甲斐あって渡利は昨年12月の全日本選手権で優勝、五輪アジア予選の代表に選ばれた。「ゼロになった五輪への道をひとつずつ」歩む道がつながりはじめた。 迷う間もなく75kg級で勝負すると決断してから、増量のために食事を1日5回に増やし、茶碗をどんぶりに替え、食べる量を増やした。それでも練習をするとすぐ減ってしまう。なかなか増えない体重にいらだちを覚えながら、昨年12月の全日本選手権には、75kg級にエントリーできる下限ギリギリの69kgを超えた。