がんはなぜ発症するの? 期待されるiPS細胞を使った治療法…効果を高めるために心がけておきたいこと
がん細胞を効率的に攻撃する研究
がん治療の現場では、さまざまな「細胞」が注目されています。その理由について聞きました。(聞き手・道丸摩耶) ――なぜ、がん治療の現場で「細胞」が注目されるのでしょうか。 そもそも、がんというのは、人間の細胞の中にある遺伝子が傷つくことによって起きる病気です。がんを予防したり、がんになった人が再発したりしないようにするには、細胞を傷めないという考え方が大事になってきます。 でも、どうしたら細胞が傷ついてしまうのか、分かっていないことも多いのです。飲酒の影響にしても、お酒の種類や量によって細胞の傷み方は違うのか。食事にしても、何を食べれば、もしくは何を避ければ細胞が健康でいられるのか。分かっていないことが多く、大事な研究テーマになっています。また、研究の世界でも、細胞のいろいろな性質をみる技術ができています。 ――先端医療開発センターは、そうした細胞の研究をしているのでしょうか。 細胞とも無関係ではありませんが、主に新しい治療法を広げるお手伝いをしています。新しい治療法が世に出るためには、人を対象に有効性や安全性を確かめる臨床試験(治験)が必要で、その治験を広げるお手伝いです。 がん細胞を殺すには、どこを標的にして、どう攻撃するかが大事になります。研究の中には細胞をターゲットにしたものもありますし、抗体もありますし、最近だと光に反応する薬剤を使った光免疫といった新しいものもあります。 そうした新たな治療法、つまり新たな武器がちゃんと使えるかどうかを評価するのが私たちの仕事です。治療法自体の開発をしているわけではありませんが、研究結果をどう世の中に出していくかを考えています。 ――最近では、iPS細胞(人工多能性幹細胞)が注目されていますが、がん治療の現場にも生かせますか。 iPS細胞を始めとする再生医療が、がん治療の現場で果たす役割は大きいでしょう。皮膚や骨、心臓の細胞などを再生していく臨床研究がすでに始まっていますが、がん治療の分野でもiPS細胞から免疫細胞を作って治療に使う研究が実施されています。また、抗がん剤が効くかどうかも、昔は動物を使って調べていましたが、最近では、iPS細胞で人の体のがん細胞と同じものを作って調べられるようになりました。 iPS細胞を治療に使うのであれば、材料となる元の細胞は元気な方がいいに決まっています。自分の細胞が元気でいい状態であれば、他人を救える。自分の細胞が、子どもやお孫さんの治療に使えるかもしれない。そうやって、「細胞レベルの健康」という概念を皆が持つ世の中になれば、元気でいようという気持ちは高まるでしょう。たばこを吸うと「細胞に悪影響を及ぼす」と禁煙する人も増えるかもしれません。 ――自分の健康を自分で守るという考えですね。 そうです。セルフメディケーションという言葉はだいぶ一般的になってきましたが、薬局でお薬を買うことだけがセルフメディケーションではありません。自分の健康維持のためにどうするかを考える習慣のことをいいます。医療費が高い海外では、病気にならない努力をするのが一般的ですが、日本は簡単にお医者さんにかかれるので、なかなかそこまで考えない人も多いのかもしれません。