がんはなぜ発症するの? 期待されるiPS細胞を使った治療法…効果を高めるために心がけておきたいこと
いつまでも元気に過ごせることを目指して
――細胞を元気に保って、健康でいたいものです。 それはとても大事なことです。とはいえ、そもそも健康とは何でしょう。病気が見えないことが健康なのか、ゆくゆく病気で死なないことが大事なのか、難しいところです。 どんなにがんばっても人間は病気になりますし、がんになることもあります。であれば、自分が望んでいる活動や日常生活ができる形で長生きを目指す「活動長寿」が大事になります。 がんの治療も、なるべく切除しないで済むよう、手術前に放射線治療をして、がんを小さくする治療が選択されることが多くなっています。日本のように高齢化が進んだ社会では、がんの患者さんも年配の方が多く、根治を目指すということだけでなく、患者さんの希望される生活を送れる治療を一緒に考えていくことが大事です。治療法も選択肢が増えているので、自分のライフプランにあった治療を選んでいく必要があります。 ――患者さんによって、受ける治療も異なるのですね。 例えば、胃や腸といった消化管壁の粘膜の下に腫瘍ができる「GIST(消化管間質腫瘍)」という希少がんがあります。手術をしても再発リスクが高いため、「グリベック」という抗がん剤を飲むことが多いのですが、再発を防ぐにはいつまで飲めばいいのか、患者さんが少ないので臨床試験ができず、分かっていないのです。血圧を下げる降圧剤のように、一生飲み続ける方が再発リスクは減るという医師もいるし、副作用や高額になる治療費のことを考えて一度やめ、再発してから飲み始めても、治療経過は変わらないという医師もいます。どちらを取りますか? ――患者さんの状況によって違うのではないでしょうか。 そうです。例えば患者さんが70歳代、80歳代の人なら、一度やめるという選択肢はあるでしょう。では、20歳代の人だったら? 再発する方がつらいから長く飲み続けましょうとなりますよね。ところが、結婚を控えていて、子どもを持ちたいと希望していたら、また状況が変わってきます。抗がん剤を飲んでいると子どもを作れないので、一度薬を休み、精子凍結、卵子凍結など患者さんに応じたライフプランを考えていく必要があるのです。 抗がん剤も、昔はがん細胞を殺す薬が中心でしたが、近年はがん細胞の周りにある正常な細胞を元気づけたり、がん細胞を援助する環境を壊したりする考えが出てきて、治療は多種多様になっています。細胞レベルでその人に効く薬を探すというだけでなく、患者さんの個性に応じた治療を最適化して答えを出していくことが真の個別化医療です。この分野は今後も発展していくでしょう。 ――治療でも、細胞が鍵になるのですね。最後に、土井さんがご自身の細胞を健康に保つためにやっていることはありますか。 自分の細胞に「元気?」と問いかけてはいますが、なかなか答えてくれません(笑)。セルフメディケーションとして、がん検診を受けています。
どい・としひこ
1994年、岡山大学大学院医学研究科第一内科修了後、国立病院四国がんセンター勤務。2002年に現国立がん研究センター東病院に入職し、消化管内科科長、医療情報部部長などを経て、22年から24年まで、先端医療開発センター長を務めた。24年4月、東病院病院長に就任。