日本でアフリカツメガエル大繁殖 社会と生態系の危機?
野外に逃げ出したらどんな問題を起こす?
冒頭で、アフリカツメガエルの飼いやすさ・増やしやすさが野外では問題になると紹介しました。逃げ出したアフリカツメガエルは、どんな問題を起こすのでしょうか。 まず、病気を運ぶ危険性です。例えば、多くの両生類にとって致命的な「カエルツボカビ」という病原体に感染しても、アフリカツメガエルは発病せず元気に生き残ります。感染した個体が移動することで、病気が広がって生態系にダメージを与えてしまう恐れがあります。 さらに、水中の「食う」「食われる」のネットワークを大きく乱すことが懸念されています。餌を丸呑みする両生類では、口の大きさが食べられる獲物の大きさを決めます。アフリカツメガエルは水中で餌を食べるので、同じ口の大きさの水棲の在来種と餌を争うかもしれません。そういう在来種がいない場所では、今まで天敵がいなかった在来種を捕食する存在になる可能性があります。アフリカツメガエルが野外でヤゴなどの水棲の動物を食べているのが確認されており、希少な生物を絶滅させることもあり得ます。 生態系への影響だけでなく、鯉の養殖場で稚魚を食べてしまうなど、経済的にも問題を起こしています。 以上のような定着の可能性、生態系や社会への影響を踏まえて、生態系被害防止外来種リストでは、アフリカツメガエルは「近年の国内への侵入や分布の拡大が注目されている等の理由により、知見の集積が必要」で、利用の際には「逸出には十分な注意を払い、放逐を厳に慎むべき」と記されています。
リスト化は「外来種対策」の第一歩
外来種問題の状況は、刻一刻と変わっていきます。愛知ターゲットで約束された「実効的な対策」のためには、優先順位の設定が極めて重要です。だからこそ、現実に即した効果的なリストとして、継続的な更新が求められます。罰則のある特定外来生物の指定を増やす必要もあるかもしれません。 アフリカツメガエルは、陸や水路によって1年に3.1~3.9キロ分散するというデータがあります。対策がうまく行かなければ、今後もどんどん広がったとしても不思議ではありません。生物が定着してから頭を抱えるより、入れないように予防する方が効率的で効果的であるように思えます。 生物を利用する人、移動させる人が責任をもって、必要以上に持ち込まない、逃がさないことがまず大切です。そのためには、情報が整理されたリストが役立つはずです。 リストには、多くの生物が掲載されています。日本原産だと勘違いされている生物や、意外な問題を起こしている生物も多く、単純な発見を求めて読んでも楽しめると思います。まずは、楽しみながらリストを眺めて、外来種問題に触れてみてください。 ・生態系被害防止外来種リスト(環境省)
◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 山本朋範(やまもと・とものり) 1978年、大阪府生まれ。育ちは兵庫県。専門は進化生態学。企業の研究員、フィリピンの山岳地帯の駐在員、行政コンサル勤務などを経て、2016年より現職。生き物を見るのも飼うのも殖やすのも好き