誰もが情報発信できる時代に「信頼される」ための指針
いわゆる「ジャーナリスト」とは違う場所から
筆者は「音楽ジャーナリスト」という肩書きで仕事をしている。アーティストへのインタビュー取材から作品や人物像を掘り下げたり、ライブやコンサートの批評をしたり、市場や業界の動向を追ったり、ネット上に生まれた自然発生的なムーブメントがどう巻き起こったかを解き明かすようなことをやっている。 なので、新聞記者や報道機関出身の方々がよく仰るようなジャーナリズム論からすると、自分の立っている場所は傍流であるのだよなと思う。権力の監視をしているわけではない。危険な場所に身を賭しているわけでもないし、政治や事件の現場にいるわけでもない。そういう人間がジャーナリズムを語ることへの引け目はある。 だったらこの書評を引き受けるなよという話でもあるのだが、それでも言うべきことはある。その一つは、ジャーナリズムは特権ではない、ということ。そもそも医師や弁護士、保育士や介護福祉士などと違って、ジャーナリストには資格試験はない。専門教育によって特殊技能を学んだものがなれるというわけでもない。多くの人は、報道機関にまず職を得て、仕事の現場でその能力を磨いていく。政治家と違って投票で選ばれるわけでもない。本書のタイトルは「ジャーナリストの条件」(原題は「THE ELEMENTS OF JOURNALISM」)であるが、別に何らかの条件を満たさないとジャーナリストになれないというわけではない。誰でもジャーナリストを名乗ることができる。 もう一つは、それでいて、ジャーナリズムが世の中に与える影響はとても大きいということ。マスメディアのちからを指す「第四の権力」という言葉もある。情報を発信することで、ある意図に沿って社会現象を誘導できるくらいの潜在的な力を持っている。 個人的なスタンスとしては、インターネットによって市井の人々が情報発信の力を持つようになったことは、とてもポジティブな世の中の変化だと思っている。それによって従来のマスメディアの立場が相対的に低下してきたのが21世紀に入ってからの大きな趨勢なのだが、そのこと自体をことさら問題視したり嘆いたりするような感覚はあまりない。