“キラキラネーム”は日本の文化? 好きだったけど…改名に踏み切った子の葛藤
たとえば、女性の名によく使われる「彩」。この字を「あや」と読む名は大正時代には見つからず、急に増え始めたのは1980年ごろからだという。 「最初は違和感があっても、自由に任せておけば、その時代の感性や知性に合ったものが広がって定着するんです。国が法律で新たな文化の芽をつぶすようなことをしてはならないと思いますね」 戸籍法の改正に際しては、それまでに行われてきた法制審議会の部会での議論やパブリックコメント、アンケートを経て、「読み方は、氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」と定められることになった。だが、自治体の担当者が「一般に認められている」かどうかを判断するのは難しいと笹原さんは言う。 「仮にマニュアルとして例示しようにも、どの漢字が人名で、どのように読まれているのかを網羅的に調べた基礎的なデータがありません。通達に即して、現場で柔軟な対応をしていただけることが期待されます」 法務省は今後、自治体に通達で基準を具体的に示すとしている。笹原さんは、「一般に認められている」という文言が入ったことで親が命名する際、「この名前でいいのかな」と立ち止まって、しっかりと考えさせる効果はあるかもしれないと指摘する。
「法によって命名権を制限するのはなじまない。一方で、子の名前を親の自由にしていいのかという懸念もあります。私が教えている学生にも、年に数人は極端に難読な名前があり、生まれてこの方、一度も正しく読まれたことがないと嘆く声を聞くこともあります。そうしたことから、子どもが大きくなって社会で過ごす姿をしっかりと想像し、文字の意味に加えてその子と周囲の幸せについてもよく考えて名づけてほしいと思うのです」 読みにくい名前であっても、つらいというより誇りに思う感覚が強い人もいる。
人はなぜ“キラキラネーム”が気になってしまうのか?
「氏も難読なので、そちらに注目されることが多かったですね。守侑という名は、オンリーワンというか、ほかにまったくいないので嫌いではないです」 そう語るのは、精神科医で詩人でもある尾久守侑(おぎゅう・かみゆ)さんだ。「かみゆ」はフランス人に見られる名前だ。小説『異邦人』の作者アルベール・カミュ、彫刻家ロダンの恋人カミーユ・クローデル。あるいはアニメ「機動戦士Zガンダム」の主人公カミーユ・ビダンを思い出す人もいるだろう。そうした名前に由来があるのかと思えば、そのいずれでもないと尾久さんは言う。 「守侑という名は、フランスに留学経験がある父親が、かの地にちなんだ名前を望んだことが由来だそうです。私自身、自分は人とどこが違うのかについてずっと思考し続けてきましたが、それには名が関係しているかもしれません」