豊富な資金で選手を呼び込みチーム強化、リーグを変えた外国人投資家 【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑥】
試合はリバプールに先制点を許したものの、チェルシーが終盤に2点を入れて逆転勝利し、CLの切符を手にした。ただ、話はそれだけに収まらなかった。CL出場権の確保がロシアの大富豪ロマン・アブラモビッチ氏の目に留まり、クラブは7月に1億4000万ポンドで買収されることになった。 ▽無名の存在、「一体誰それ?」 アブラモビッチ氏はロシアの新興財閥「オリガルヒ」の一人で、オイルマネーで財をなしたユダヤ系ロシア人の実業家だ。今でこそ名が知られるが、当時36歳で無名に近くファンの受け止めは一様だった。「アブラモビッチ?一体、誰それ?」。 1976年からチェルシーを追い続けるグレアム・アンダーソンさん(57)は「当時はインターネットが今ほど発達していなくて得られる情報が限られた。新聞やテレビがどのような人物か報じるのを待つしかなかった」と、当時を振り返る。 オーナー交代でクラブの経営は180度変わった。アブラモビッチ氏はポケットマネーで負債を肩代わりし、無利子で運営資金を融資した。1億5000万ユーロ(当時のレートで約200億円)を投じ、アルゼンチン代表FWエルナン・クレスポやフランス代表MFクロード・マケレレといったスター選手を初年度から集め、チーム力の強化を図った。 ▽「スペシャルワン」、名将モウリーニョ
歓喜の瞬間はすぐ訪れた。2003~04年シーズンにリーグ2位と躍進し、欧州CLでもクラブ史上最高のベスト4まで勝ち進んだ。好成績にもかかわらず、クラウディオ・ラニエリ監督をあっさり更迭。代わりに招へいしたのは、ポルトガルのポルトをCL優勝に導いたばかりだった当時41歳の若き名将、ジョゼ・モウリーニョだった。 モウリーニョは就任会見で言い放った。「私を傲慢だと思わないでほしい。話していることは事実なのだからね。私は欧州の覇者になった。自分自身をスペシャルワン(特別な男)だと思っている」 有言実行―。注目を集めたカリスマ的な指揮官の下、チームは38試合で15失点という記録的な堅守を誇り50年ぶりのリーグ優勝を達成し、マンチェスター・ユナイテッドとアーセナルの2強時代に終止符を打った。 強豪の仲間入りを果たしたチェルシーは現在までプレミアリーグ優勝5回、欧州CL優勝2回を誇る。「金で成功を買った」と後ろ指をさされもしたが、ファンは気にしていない。アンダーソンさんは「ロマンが来て監督や選手に資金を投下し、私たちファンの夢が全てかなった」と誇らしげに語る。