映画『ランサム 非公式作戦』は中東を舞台にした救出&逃走劇に夢中になる!
歴史を揺るがすほどの衝撃事件のシリアス感。映画としてのエンタテインメント性。その両面を最高レベルで合体させるのは至難の業(わざ)だが、成功すれば最高の一本になる。これを証明してくれるのが、韓国映画の勢いにも乗った本作かもしれない! モチーフになったのは、内戦下のレバノン、ベイルートで発生した韓国人外交官の拉致事件。1986年、韓国大使館の一等書記官が武装集団にさらわれ、韓国側はその生死すら確認できない状況に陥った。韓国にとっても前代未聞のこの事件の顛末を、本作は基本的になぞっていく。事件を巡って、韓国政府内部で部署同士のせめぎ合いが起こった挙句、ベイルートに送られたのは、外交官のミンジュン。彼もこの任務を成功させることで昇進という野心を抱いている。スイスでのプロのアドバイスに従って、身代金の受け渡し作戦を決行するミンジュンだが、そんなに簡単に成功するわけはない。ベイルートでタクシー運転手として働く韓国人のパンスを巻き込んでの逃走劇、そして救出劇は、映画として(おそらく)フィクションを盛り込み、最高のテンポ&テンションで展開していく! 80年代のレバノンを再現するため、撮影はモロッコの主要都市、荒涼とした自然の中で敢行。リアリティ、スケール感がしっかりと映像に刻印された。カーアクションもハリウッド大作並みに本格的だし、野犬との闘い、『ミッション:インポッシブル』を思わせるシーンなど、とにかく飽きさせない。そして何と言っても本作の魅力となっているのが、主演2人だ。『チェイサー』などで韓国を代表する俳優になったハ・ジョンウは、エリート外交官なのに嫉妬心もあり、時に自分本位なミンジュンを人間くさく名演。そして『神と共に』シリーズなどのチュ・ジフンは、天性の“山師”ともいえるパンスが超ハマリ役。2人のバディムービーという雰囲気で、難事件の現場に放り込まれる感覚がたまらない! そして終盤は、正義感や誠実さといった“感動”ポイントが物語と一体になり、映画らしい満足感を得られることだろう。 『ランサム 非公式作戦』公開中 監督/キム・ソンフン 脚本/キム・ジョンヨン、ヨ・ジョンミ 出演/ハ・ジョンウ、チュ・ジフン 配給/クロックワークス 2023年/韓国/上映時間133分
文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito