サンフレッチェ広島、中野就斗はさらに強くなる。繰り返した「もう一回」の言葉。忘れられぬ試練を「乗り越えてこそ」【コラム】
明治安田J1リーグ第36節、浦和レッズ対サンフレッチェ広島が10日に行われた。連敗中で首位の座から陥落してしまった広島は、敵地で勝ち点の獲得を目指すも3失点完敗。これで連敗数は「3」に伸びた。この試合、ミスから先制点を献上してしまった中野就斗は、同じワードを繰り返しながら、さらなる成長を誓った。(取材・文:藤江直人) 【最新順位表】2024明治安田Jリーグ J1・J2・J3全60クラブ
中野就斗が口にし続けた「もう一回」
自らを鼓舞するように、サンフレッチェ広島のDF中野就斗は同じ言葉を実に10度も繰り返した。浦和レッズに0-3で完敗し、悪夢の3連敗を喫した10日のJ1リーグ第36節を終えた直後。埼玉スタジアム内の取材エリアで、先制点につながる痛恨のミスを犯した24歳のホープは「もう一回」を口にし続けた。 「今日に関しては自分のミスから失点してしまったので、自分自身に対してもう一回、目を向けながら、チームのために何ができるのか、というのを考えていかなきゃいけない」 中野が悔やんだ浦和の先制点が生まれたのは、広島が押し込んでいた45分だった。必死にプレスバックしたFWブライアン・リンセンが突っかけたボールを、DF石原広教が前方へ大きく蹴り出す。標的になったMF渡邊凌磨が半身の体勢で反応するも、左足で収めた跳ね返りが右手に当たった。 目の前にいたDF荒木隼人が右手をあげて、渡邊のハンドをアピールする。しかし、小屋幸栄主審は試合を流す。ボールは右サイドにいたMF関根貴大をへて、中央への浮き球のパスに変わった。 本来ならばリンセンがいるスペースへ、左サイドからMF松尾佑介が走り込んでくる。しかし、3バックの右で先発していた中野が危険を察知し、松尾を制する形で前方へ回り込んだ直後だった。
中野就斗の動きを見た松尾佑介の“賭け”
「普通にボールの処理を誤ってしまった。主審が笛を吹かない以上はプレーオンですし、あの場面は僕のミスというか個人的な問題でした。正直、クリアするのか、味方へつなぐのかで考えているうちにボールが前に来ていて、ちょっと遅れてしまった。大事な試合だからこそ、はっきりできればよかった」 荒木だけではない。ベンチのミヒャエル・スキッベ監督らが、いっせいにハンドをアピールした状況に気を取られたわけではないと前置きした中野は、伸ばした右足でボールに触れず、後方へそらしてしまった責任を自分自身に帰結させた。ただ、失点にはもうひとつの要因も加わっていた。 閃きに導かれるように、走り込むコースを中野の右斜め後方から背後へ変えた松尾が打ち明ける。 「彼(中野)が途中で走るコースを変えたので、何となくあっち(後方)に来るんじゃないかと。ピッチもちょっとスリッピーだったし、彼の体の向きもあった。勘というか、賭けみたいなものでした」 中野のミスを介して、目の前にこぼれてきたボールを松尾が確実にゴール左へ叩き込んだ。中野が走るコースを変えたのは、先にボールの落下点に入った刹那で「クリアするのか、つなぐのか」でほんの一瞬ながら迷っていた隙と一致する。失点した直後に頭を抱えた中野は、その後の心境をこう明かしている。