サンフレッチェ広島、中野就斗はさらに強くなる。繰り返した「もう一回」の言葉。忘れられぬ試練を「乗り越えてこそ」【コラム】
「勝ちたい、勝ちたいという欲がチーム全体にあるのは事実」
「やってしまった、という思いがありました。ただ、90分間を通して何が起こるのかが本当にわからないのがサッカーなので、自分をもう一回取り戻す、という意味を込めて失点は忘れました」 しかし、広島は前後半で浦和の倍近い23本ものシュートを浴びせながら、ゴールを奪えなかった。逆に後半、前がかりになった背後を取られ、カウンターから2ゴールを追加された。 自らの豪快なミドルシュートで先制しながら湘南ベルマーレに逆転負けを喫し、連続無敗記録が11試合(10勝1分)で途切れたのが10月19日。前節では京都サンガF.C.に今シーズン初の零封負けを喫して、首位を昨シーズン覇者・ヴィッセル神戸に明け渡し、そして浦和戦で同じく初の3連敗を喫した。 「焦りというか、こういう優勝争いはサッカー人生でもなかなか経験できるものではないので、勝ちたい、勝ちたいという欲がチーム全体にあるのは事実です。それがなかなか結果についてこなくて、苦しい思いをみんながしていると思いますけど、だからこそここを乗り越えた先に優勝が待っているはずなので」 プレッシャーを認めつつも必死にファイティングポーズを取った中野は、1時間早くキックオフされていた試合で、神戸が終了間際にオウンゴールで追いつかれて引き分けた結果を知っていた。残り2試合で勝ち点差が5ポイントに広がるところを、3ポイントにとどまった状況を努めて前向きに受け止めた。
ロッカールームで発せられたレジェンド・青山敏弘の言葉
「神戸さんが引き分けで終わったのは、やはり意味があると思っています。ここで耐えて、耐えて、自分自身ももう一回、チームのために何ができるのかを考えながら、残り2試合を本当に死ぬ気で戦っていきたい」 ハーフタイムには、広島サポーターで埋まったゴール裏のスタンドが沸き立つ場面があった。リーグ戦で8月7日の東京ヴェルディ戦以来、今シーズン限りでの現役引退を発表した10月20日以降では初めてベンチ入りしたMF青山敏弘が両手を何度も振りあげ、ともに戦おうとスタンドを鼓舞したからだ。 岡山・作陽高から2004シーズンに加入した広島ひと筋で21年目を迎えた、38歳の大ベテランにしてレジェンドは、中野によれば試合後のロッカールームでこんな言葉でチームを鼓舞したという。 「ここでもう一回踏ん張るぞ、ここで折れているようじゃダメだぞ、と」 群馬・桐生第一高から桐蔭横浜大をへて、広島でプロのキャリアを歩み出して2シーズン目。身長182cm体重79kgの屈強なボディに、豊富な運動量と対人能力の高い守備力、ボールを前へと運ぶ推進力、右利きながら左足にもパンチ力を搭載したホープの前の前には、常に青山の姿があった。 「サッカーに対する姿勢を含めて、オン・ザ・ピッチでもオフ・ザ・ピッチでも本当に誰もが憧れるサッカー選手だと思うし、そういうアオさん(青山)の身近にいたなかで自分も成長できた。やはりアオさんとともに優勝したいし、アオさんにシャーレを掲げてほしいという思いがある。 次の試合までには日程も一度空くので、チームとして、そして自分自身として何ができるのかをもう一回、しっかりと見つめ直したい」