“史上最弱”? バイデン新大統領はアメリカの分断を解消できるのか
「ハネムーン期間」はない? バイデン政権の船出
バイデン政権はこの政治的な分断の中で幕を開ける。 アメリカ大統領は政権交代から100日間が議会やメディアとの「ハネムーン(蜜月)期間」と呼ばれ、批判が少ない初動期間に政権交代をいかに印象付けられるかが勝負となる。しかし、根深い政治的分極化の中、トランプ政権のスタートと同じように、「ハネムーン期間」が存在しない可能性もある。
民主党の中の左派との関係も穏健派のバイデン氏にとってやりにくいはずだ。コロナ禍で民主党予備選挙の開催が困難となる中、党内左派のバーニー・サンダース議員の譲歩によって民主党候補になった経緯がある。そのため、党内左派にも配慮が必要となる。実際に政権発足時の人事には、女性や人種的マイノリティといった人が多く登用されているのも、左派への対応の一環でもある。 そもそも「バイデン政権は史上最弱」「すでにレームダック」など批判的な意見も出ている。 しかし、「どうせうまくいかない」と期待値が低い分、バイデン氏が少しでも成果を上げれば、高く評価されるかもしれない。 バイデン氏は長きにわたる政治経験の中で、調整役としてさまざまな政策に携わっている。政敵とも話し合いながら物事を進めていくことに長けており、この経歴やキャラクターが大きなポイントだ。交渉相手となる共和党のマコネル院内総務との関係が良好なのも好材料だ。分極化の中においてもバイデン氏の調整能力が発揮されれば、予想以上に政策を動かせる可能性もある。
国民融和のカギ “一石六鳥”?のコロナ対策
国内政策としては「Build Back Better(より良い形での立て直し)」のスローガンの下、コロナ対策、製造業育成、クリーンエネルギー、人種平等の4つを目標に掲げている。この中でもコロナ対策は国民を融和させるカギになるであろう。まず、ワクチンの配布がスムーズに行われ、感染が抑えられたとしたら、バイデン氏の評価も一変するかもしれない。 なぜなら、コロナ対策は他の4つの目標に直結するためだ。コロナ対策の経済支援として、アメリカ製品購入支援の「バイアメリカン」などの政策に力を入れれば製造業育成につながる。コロナ対策のための税制優遇などを中・低所得者まで拡大させれば、人種マイノリティ層もカバーされるため、人種平等も進む。リーマンショックに対応した2009年2月の大型景気刺激策には太陽光パネル事業者支援などの代替エネルギー産業支援も入っていたように、今回もクリーンエネルギー推進は可能であろう。 まさに「一石四鳥」だが、さらに、製造業育成や中・低所得者層の税制優遇は、トランプ氏の支持層でもある白人ブルーカラー層の救済につながる。うまくやれば共和党支持者にも救済の手を差し伸べることができる。さらには、党内左派はクリーンエネルギー、人種平等、社会福祉、保育、介護サービスなどを重視しており、コロナ対策の中で、この政策のいくつかは対応できる。そう考えると、コロナ対策は実際には「一石五鳥」かも「一石六鳥」かもしれない。 逆に言えば、コロナ対策がうまくいかなければ、一気にバイデン政権は不安定になる可能性がある。 議会で法案を通すための多数派形成には、共和党側からの支援が不可欠だ。民主党は下院の多数派を維持したが、10議席以上減らした。上院では民主党がかろうじて「多数派」となったが、議席数は50対50と同数であり、党議拘束がないため、「ねじれ」はいつでも起こりうる。反対されれば政策は“絵に描いた餅”となる。さらに上院の場合、60議席を確保していなければ少数派が多数派を止めることができる「フィリバスター」(※)という制度もあるため、そもそものコロナ対策から大きく難航する可能性もある。 (※)フィリバスター…米上院は審議時間が無制限なので、少数派は審議を長引かせて投票を妨げる議事妨害が可能。ただし「60票」(上院定数の5分の3)以上の賛成を得て「クローチャー」(討論集結)の決議を行うことができれば、審議を打ち切って議決に持ち込むことができる。