変貌するアメリカの政治報道 保守・リベラル両極への「分極化」進む 上智大学教授・前嶋和弘
メディアによる政治報道は、日本と海外でどう違うのでしょうか。日本では各新聞社、各テレビ局が「客観報道」を原則に報道しています。アメリカの政治報道の歴史や現状について、アメリカのメディア事情に詳しい上智大学の前嶋和弘教授が解説します。 ※ ※ ※ アメリカにおける政治報道はここ20年の間に大きく変貌しつつあります。その中でも最も目立つのが、「保守」と「リベラル」のいずれかの政治的立場を明確にし、「報道」というよりも「政治ショー」といったような内容の番組がCATV(および衛星放送)の24時間ニュース専門局などで発信され、それを情報源とする国民が増えている点です。アメリカの政治と社会が「保守」と「リベラル」の両極に分かれつつある「政治的分極化」がマスメディアにも影響しているといえます。この「メディアの分極化」はラジオが先行していましたが、テレビに続き、新聞も一部で顕著になってきました。「メディアの分極化」の背景とアメリカ政治全体に与える影響を考えてみたいと思います。
アメリカでも「客観報道」が原則
アメリカでもいまだにマスメディアの行動原理は「客観報道」です。19世紀末、当時主流だったセンセーショナルな新聞の報道(「イエロー・ジャーナリズム」)を反省し、より正しい情報を提供する客観報道という規範を作り上げていったのがアメリカのメディアです。現在でも、3大ネットワーク(NBC、CBS、ABC)のそれぞれの夕方のニュースは、客観性を何よりも重視した制作を心がけています。また、新聞も論説などを除けば、何かの主張に対しては、それと逆の意見も取材・掲載する「ポイント・カウンターポイント」原則を貫くことが一般的です。アメリカの大学や大学院のジャーナリズム学科や専攻課程では、客観報道のスタイルなどをしっかり叩き込まれます。 ただ、保守派とリベラル化という国民の分極化が目立ち始め、メディアの過当競争もあって、1990年代ごろから保守派とリベラル派のニーズに合わせた情報提供が台頭してきました。特に、ここ10年の間には保守とリベラルの両極の立場に依拠して伝える「メディアの分極化」が目立っています。