“嘘のニュース”が世論をつくる? 米大統領選で注目集めた「脱真実」
ドナルド・トランプ氏が1月20日にアメリカ大統領に正式就任する。そのトランプ氏が当選した昨秋の大統領選挙で一躍注目を集めたのが、不確定で誤解を意図的に招きやすい情報や明らかな偽ニュースが拡散していく「脱真実(post-truth)」と呼ばれる現象であった。ねつ造された情報がインターネットの保守系のサイトが取り上げることで注目され、それがソーシャルメディアを通じて一気に広がっていった。「脱真実」現象とその今後について考えてみたい(上智大学教授・前嶋和弘) 【写真】トランプ外交を読み解く3つのキーワード「取引」「世論」「変化」
保守系サイトなどがSNSで流布
「脱真実」現象を象徴する事件として一躍世界的に有名になったのが、首都ワシントンのピザ店が児童買春組織の拠点になっているという陰謀論に関連する発砲事件である。「民主党の大統領候補であるヒラリー・クリントンと陣営幹部がこの児童買春に加わっている」という話が大統領選挙戦の直前に保守系サイトやソーシャルメディアを通じて広がった。そして、選挙後の12月4日に、銃を持った男がこのピザ店に乱入したことで一気に「通常のニュース」になった。男は数回発砲し、負傷者はいなかったものの、45分もの間、店に籠城。警官とのやり取りの後、身柄を拘束され、テレビや新聞が「嘘の情報を信じた男が児童たちを助けようと乱入した」とこぞって伝えた。 法廷では男は「子供たちを助けたかった」と弁明している。そのピザ店は地下鉄駅の近くで人通りも多く、筆者も過去に頻繁に前を通ったことがあるが、児童買春組織の拠点になっているような雰囲気は全くない。いずれにしろ、大統領選挙をめぐる陰謀説がこれだけ大きくなってしまったのは事実である。 このピザ店をめぐる話の他にも、2016年10月には、「ドナルド・トランプの集会に入り込み、トランプへの抗議運動をしていた人物は、クリントン陣営から3500ドルを受け取った回し者」という作り話が既存のテレビ局サイトに似せた嘘のサイトに掲載された。それをトランプの次男のエリックが「ついに真実が明らかになった」とツイートし、その事実がさまざまな既存メディアでも報じられることで有名になってしまった。 このほかにも、「厳しくトランプを批判していたローマ法王が最後にはトランプ支持を表明した」「オノ・ヨーコとヒラリー・クリントンは1970年代に性的な関係があった」「クリントンはイスラム国に武器を売却した」「クリントンの電子メール問題を追っていたFBI捜査官が殺された」「ビル・クリントンの隠し子が“父”に会おうとしている」などのデマが2016年選挙の間にはソーシャルメディアで流布した。