「地味すぎて凄さが伝わらないチャンピオンライダー、ペッコについて解説したい」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.15】
今シーズン3度目のスプリント&決勝レースでの優勝
元MotoGPライダーの青木宣篤さんがお届けするマニアックなレース記事が上毛グランプリ新聞。1997年にGP500でルーキーイヤーながらランキング3位に入ったほか、プロトンKRやスズキでモトGPマシンの開発ライダーとして長年にわたって知見を蓄えてきたのがノブ青木こと青木宣篤さんだ。WEBヤングマシンで監修を務める「上毛GP新聞」。第15回は、ブレーキングで誰にも真似できないリヤスライドを駆使するペッコ・パニャイアのライディングを解説。 【写真】マシンがコンパクトに曲がるバニャイアのライディング
天性のセンサーを持っているバニャイア
フランチェスコ・バニャイアが勢いに乗っている。中盤戦に入ってますます調子は上向きで、第11戦オーストリアGPでは今季3回目のピンピン、すなわち土曜日のスプリントレース、日曜日の決勝レースの両方で優勝を果たした。決勝の優勝は3年連続で、レッドブル・リンクでの強さを見せつけた。 彼のライディングは、非常にレベルが高い。当・上毛GP新聞でも再三再四その凄味についてお知らせしてきたが、どうも皆さんに伝わっている気がしない(笑)。あまりにもシブすぎて、分かりやすいハデさに欠けるのだ。 だから「バニャイアが勝つと強すぎてつまんない」とか「地味」とかさんざん言われてしまうわけだが、このまま行くと3連覇も見えている偉大なライダーである。しつこいようだが、バニャイアの凄さについて解説したい。 まず彼が天才的なのは、乗車位置である。……この一文からして、かなりシブい……。MotoGPマシンは200kgを切る軽量な乗り物だし、リーンというダイナミックな動きもある。その中で、70kg近くの重量物であるライダー+装具は、かなりの比率を占める。だからライダーがどこにどう乗るかは、非常に重要な要素なのだ。 バニャイアの操作と、それに対するマシンの反応を見ていると、彼は常にいい位置に乗っていることが分かる。マシンにまたがってすぐに「ここにこう乗るべきだな」と理解できるのは、天性のセンサーによるものだと思う。 彼のセンシング能力は、非常に優れている。以前このコラムでも、レース終盤に強い彼を「バニャイアだけタイヤに目が付いているようだ」と表したことがあるが、それぐらいタイヤの消耗具合をリアルタイムかつ精密に感じ取っている。 さらに前回のオーストリアGPでのライディングを見ていると、ブレーキング時のリヤのスライド量が理想的だった。リヤを過度に流しすぎることなく、弱カウンターステアの理想的なスライドは、まるで四輪ラリーのWRCマシンのようだ。