「地味すぎて凄さが伝わらないチャンピオンライダー、ペッコについて解説したい」【ノブ青木の上毛グランプリ新聞 Vol.15】
リヤの制動力と旋回性を高めている
バニャイアが優れているのは、思いがけずスライドさせすぎてしまった時に、何事もなく元に戻せることだ。いくらバニャイアとは言え、「こんなに横を向いちゃったらコースアウトもしくはハイサイド!?」とヒヤリとする瞬間はあるのだが、何てことなくリカバリーしてしまう。これも彼のセンシング能力の高さによるものだろう。リヤの滑り具合をフロントブレーキで加減しているようだ。 「リヤのスライド」などとアッサリ言っているし、皆さんにとっても今や見慣れた光景かもしれない。かつてバレンティーノ・ロッシがリヤスライドをモノにして以来、すっかり当たり前になった。 でも、怖い(笑)。そうそうできるものじゃない。それに、ロッシ時代はリヤブレーキやエンジンの強大なバックトルクを利用してのリヤスライドで、若干パフォーマンスっぽさもあったが、今はあくまでも速く走るための手法。かなりシビアで、ただスライドすればいいというものではなくなっている。 考えられる主な効果はふたつある。ひとつは、リヤをスライドさせることで摩擦力を高め、減速度を上げること。制動力を高めている、ということだ。もうひとつは、向き変えを早めること。リヤのスライドが収まった時点でマシンは10度ぐらいインを向いているので、より早くスロットルを開けられる。 今のMotoGPマシンは開発の制約もあり、出力自体はそんなに変わっていない。だから全開にできるポイントを少しでも早めて、長く加速することが勝負のカギだ。そのための向き変えであり、そのための制動力アップであり、そのためのリヤスライド。勝敗を決するかなり重要なアクションなのだ。 ドゥカティのファクトリーマシンは、恐らくクラッチにスペシャルな機構が使われていて、それが助けになっている面は大きいだろう。縦横剛性の適正化も、空力も、ドゥカティはかなり進んでいる。しかし、いかに優れたマシンでも、それを使いこなせるかどうかは、結局ライダーの腕次第。そういう意味でも、バニャイアは今、もっとも優れたMotoGPライダーと言えるだろう。……地味だけど。 ──抜群の速さを見せつける。 ──なのに“地味”という評価がつきまとう……。 ※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。
●監修:青木宣篤 ●まとめ:高橋剛 ●写真:Ducati, Michelin