「2021名古屋市長選・河村市政12年の検証」第3回 興味は「マスコミ受けする政策」だけ? 職員まかせの重要課題
「名古屋は保健所の職員が地を這うような努力でコロナを抑えている」 コロナ禍が本格化するにつれ、名古屋市の河村たかし市長は事あるごとにこんな主張をするようになった。保健所が応援職員を含め1日500人体制で、患者や濃厚接触者ら最大3000人を健康観察することでコロナの感染拡大を防いでいる、というのだ。 「2021名古屋市長選・河村市政12年の検証」第2回 混迷深まる名古屋城木造化 さらに、今月3日の市長選候補者の公開討論会ではこう豪語した。 「名古屋(がしていること)はもう圧倒的、日本一のコロナ対策だ」 本当に「日本一」と断言するような根拠があるのか、厚労省に聞いてみたが、「市長の“意気込み”として言われているのでは」と困惑気味の答えが返ってくるだけだった。 それはともかく、河村市長が公に職員をほめることはめったにない。「今回が初めてぐらいじゃないか」と市の元幹部は苦笑いしながら明かす。 「公務員は税金で食って楽しとる」と言われ続け、給料は減らされ続けた。「パブリック・サーバント(公僕)」として働けと煽(あお)られるが、職員のモチベーションは上がらない。「マスコミ受けする政策にしか興味を示さない」からだ。 減税、議員報酬や名古屋城、最近ではコロナや子どもの問題。河村市長がこれまで声高に叫んできたこれらのことも、もちろんそれぞれが現下の重要課題である。しかし、多様化する社会、人口230万人の名古屋市で取り組むべき課題は幅広く、優先順位は市民一人ひとりによって違う。河村市長があまり関心を示さない課題にこの12年間、名古屋市はどのように取り組んできたのか。
「耐震化率」目標未達も全国トップクラス
行政が担う役割の中でも、大きなものの一つに「防災」がある。特に、南海トラフを震源とする巨大地震の影響を大きく受けると考えられている大都市・名古屋にとって、対策をすすめることは喫緊の課題であるといえるだろう。 名古屋市は国の耐震改修促進法に基づき策定した市の建築物耐震改修促進計画で、2020年度末までに住宅や多数の人が利用する建築物の「耐震化率」をそれぞれ95%にする目標を定めた。古い木造住宅などが現行基準の耐震性能を満たすよう、建て替えや耐震補強を進めていくための計画だ。 2015年度時点で89%だった市の住宅の耐震化率は、2018年度で91%に。だが、そこから95%の目標までは、戸数で換算すると約9万5000戸の耐震化を進めなくてはらない。2020年10月の時点で目標達成は「非常に厳しい状況」だと市の担当者は市議会の委員会で述べていた。 そして目標の年度末を過ぎた今月初め、担当部署に確認すると「今まさに集計中だが、昨年の委員会答弁から推し量ってほしい」という。やはり目標は達成できていないようだ。 ただ、実は3年前時点の91%でも「全国的にはトップクラスだった」と名古屋大学減災連携研究センターの福和伸夫教授は評価する。 2018年度の全国集計は約87%。防災の先進県と言われる静岡県でも89.3%だったが、愛知県は89.7%と上回っていた。愛知県はいち早く先月、2020年度末の推計値を91.2%と発表している。 国交省は自治体ごとの数字を公表してはいないが、福和教授によると国の支援や方針が不十分な中で、愛知県も名古屋市も健闘しているのは間違いないという。 「愛知県は計画を見直して2025年に耐震化率95%を達成、2030年に概ね100%とする目標を掲げた。名古屋市も県と足並みをそろえて適切な計画の見直しをして、取り組みを促進してほしい」 実は全国に誇れるかもしれない名古屋の実績。河村市長は記者会見などでは触れていないが、今回の選挙公約(マニフェスト)には「民間住宅の耐震化について、徹底した啓発活動と助成制度を拡充し、耐震化の更なる促進を図る」と盛り込んでいる。 ただ、「日本一」や「どえりゃあ」の文字が躍る他の公約に比べれば、極めて控えめではある。