『愛に乱暴』森ガキ侑大監督 ワンシーン・ワンカットのフィルム撮影【Director’s Interview Vol.428】
『悪人』(10)『横道世之介』(13)『怒り』(16)など数多のベストセラーが映画化されてきた吉田修一作品。今回新たにそのラインナップに加わるのが、本作『愛に乱暴』だ。監督を務めたのはCMディレクターとして国内外の広告賞を席巻後、『おじいちゃん、死んじゃったって。』(17)『さんかく窓の外側は夜』(21)など話題作を次々と手掛ける森ガキ侑大。 主演に江口のりこを迎え、今の日本映画界ではハードルが高いと言われるワンシーン・ワンカットのフィルム撮影を敢行した森ガキ監督。彼はいかにして『愛に乱暴』を作り上げたのか。話を伺った。 『愛に乱暴』あらすじ 夫の実家の敷地内に建つ“はなれ”で暮らす桃子(江口のりこ)は、義母・照子(風吹ジュン)から受ける微量のストレスや夫・真守(小泉孝太郎)の無関心を振り払うように、センスのある装い、手の込んだ献立などいわゆる「丁寧な暮らし」に勤しみ毎日を充実させていた。そんな桃子の周囲で不穏な出来事が起こり始める。近隣のゴミ捨て場で相次ぐ不審火、失踪した愛猫、不気味な不倫アカウント…。桃子の平穏な日常は、少しずつ乱れ始める・・・。
原作から感じたもの
Q:なぜ「愛に乱暴」を映像化したいと思われたのでしょうか。 森ガキ:この作品は女性が主人公ということもあり、フェミニズムや不倫の小説として捉えられることがあります。もちろんディテールとしてその要素はありますが、その裏には社会的なテーマが潜んでいる。初めて読んだ時にそんな気がしました。 最近、生産性を求める人が多いと感じていて、今の日本社会はそこに全振りしている感じもある。生産性・効率性ばかり求める声を聞いて、胸が苦しくなる方もいるはずなんです。そうやって余白がなくなってくると、自分の居場所を探してもがき始める人が出てくる。そのあたりのことが、この原作の裏テーマとしてあるのかなと。 Q:脚本化の際には吉田修一さんとのやりとりもあったようですが、その作業はいかがでしたか。 森ガキ:吉田さんに映像化の相談をした際、「森ガキさんってどんな方? 過去の作品を観たい」と言われたんです。「これでダメって言われたら嫌だなぁ」と思いつつも、作品をお送りしました。すると、一作目の『おじいちゃん、死んじゃったって。』をすごく気に入ってくださり、「一度会いませんか?」となった。それで実際にお会いして色々とお話し、その2日後ぐらいに「森ガキさんに本を託したい」と言っていただきました。 その後、脚本を作り読んでもらったところ、「もうちょっとキャラクターが出ると面白いかもしれません」という感想をいただきました。吉田さんは具体的なことは言わず、いつも抽象的なことをおっしゃるんですが、そういった厳しくも愛のある吉田さんの言葉に、背中を押してもらえた感じがありましたね。 Q:最初に読んだ時に感じた「裏テーマ」については、吉田さんにお伝えしたのでしょうか。 森ガキ:それは伝えていません。そういった“答合せ”みたいなことはすごく野暮だと思うんです。仮に伝えたとしても、吉田さんも「それが正解です」とは言わないかなと。映画化を許可していただけたのは、吉田さんと私で色々と話した中で、私が原作を読んで引っかかったものを吉田さんが感じてくれたのかもしれません。
【関連記事】
- 『人と仕事』森ガキ侑大監督×河村光庸プロデューサーが再定義する、映画の社会意義【Director’s Interview Vol.149】
- Netflixシリーズ「地面師たち」大根仁監督 意識したのは海外ドラマの“容赦のなさ”【Director’s Interview Vol.426】
- 『辰巳』小路紘史監督 自主制作の自由度がもたらすものとは【Director’s Interview Vol.424】
- 『大いなる不在』近浦啓監督 初期作は全てにおいて責任を持ちたかった【Director’s Interview Vol.421】
- 『お母さんが一緒』橋口亮輔監督 リハーサルの雑談から生まれるものとは 【Director’s Interview Vol.420】