『愛に乱暴』森ガキ侑大監督 ワンシーン・ワンカットのフィルム撮影【Director’s Interview Vol.428】
江口のりこと小泉孝太郎、オファーの理由
Q:江口のりこさんの圧迫感がすごかったです。江口さんのキャスティングはどのタイミングで決まったのでしょうか。 森ガキ:原作を読んでいた時から「この役は江口さんしかいない」と思っていました。ただヒリヒリした重厚的なものを作るよりも、所々でクスッと笑えるポイントも作りたい。ただし、笑いすぎると、社会的なものが見えなくなってしまう。真剣にやりつつも、その先にある人間の滑稽さを見せたかった。それが出来るのは江口さんしかいないなと。プロデューサーも同意見だったので、それで江口さんにオファーしました。 海外の映画祭で上映した際には、「彼女は素晴らしい!」と称賛の声が上がっていました。言葉が通じなくても上手な演技は分かるんだなと。 Q:江口さんとは撮影前にディスカッションを重ねたそうですね。 森ガキ:最初にお会いした際に「海外の映画祭を目指したいです」と熱い感じで伝えたら、「また監督が夢を語ってるよ」と言わんばかりに「海外ですかぁ」と皮肉っぽく笑うんです(笑)。また、「今回はワンシーン・ワンカットなので動線を全部決めて動きます。すごく難しい撮影になると思います」と色々細かく伝えましたが、江口さんからは「実際やってみないと理解できないかもしれない」と言われました。それでも、映画の方向性や役についてなど、色々な話をした上で本番に入ることが出来たのは良かったですね。 Q:真守役の小泉孝太郎さんも不穏で面白かったです。あの前髪は監督の指示だったのでしょうか。 森ガキ:真守という役はイメージが良くないので、手を挙げてくれる人はあまりいないだろうなと。そんなときにプロデューサーから、「小泉孝太郎さんっていつもニコニコしてますよね。あの人が悪い役やったら本当に怖いですよね」という意見が出た。それで、「今まで見たことのない小泉孝太郎を一緒に作ってくれませんか?」と小泉さんにオファーしたんです。すると意外にも「待ってました!」みたいな反応が返ってきた。 「この役、本当に小泉さん?」と思わせたい。小泉さんにそう伝えました。さらに、「真守は自分をずっと内に秘めていて外に気持ちを出さないキャラクター。だから髪で顔を隠すんです。自信がないから自分を隠そうとする」と話すと、小泉さんは真守をしっかり理解してくれて、髪型も変えてくれました。髪型を変えることに最初は躊躇されていたんですが、でも本人は本気でしたね。
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