『愛に乱暴』森ガキ侑大監督 ワンシーン・ワンカットのフィルム撮影【Director’s Interview Vol.428】
奇跡を起こした熱量と映画愛
Q:桃子たちが住んでいる家も今回の主役と言っていいくらい重要な役どころです。映画に出てくる母屋と“はなれ”はどのように見つけたのでしょうか。 森ガキ:この映画は本当に奇跡の連続なところがあって、このロケ地もまさにそうでした。母屋があってその横に“はなれ”があり、L字の配置で1階建てになっている家。尚且つ床下に穴が掘れて、最後には壊す必要がある。スタッフにそう伝えると、皆「えっ?」と目が点になっていました(笑)。しかも予算的に地方ロケは出来ないから、場所は関東近郊に限られる。「そんな場所が見つかりますかね?」と。 でも、スタッフの熱量と映画愛がなせる技なのか、ラインプロデューサーの松村さんという方が、バッチリの場所を見つけてきてくれたわけです。ロケハンのタイミングでは、“はなれ”だけで撮影する約束だったのですが、時間をかけて徐々に大家さんの懐に入っていって、気づいたら母屋での撮影もOKになっていました(笑)。本当に懐に入るのが上手いというか、すごい交渉術ですよね。最後には「床下も掘っていいし、壊してもいいわよ」と言っていただけた。そこの“はなれ”は元々壊す予定だったらしいのですが、よくそんなところを見つけてきたなと。今回は本当に奇跡の連続でしたね。 Q:では最後の質問です。好きな監督や映画を教えてください。 森ガキ:好きな監督や映画は山ほどあるので絞るのが難しいですが、ベタですが『ショーシャンクの空に』(94)が映画業界に入りたいと思ったきっかけなんです。 僕は高校までずっと陸上をやっていたのですが、陸上をやめた後は受験勉強ばかりしていました。そんな中「今日は勉強したくないな…」と思ったときに、現実逃避で家と高校の間にあったレンタルビデオ屋に行ってみたんです。そこで最初に目にしたものが、『グリーンマイル』(99)などと一緒に特集されていた『ショーシャンクの空に』でした。借りて観てみると、なぜか涙が止まらなくなった。『ショーシャンクの空に』って監獄の話じゃないですか、受験の牢屋に閉じ込められたような自分の状況と重なったんでしょうね。その牢屋から解放されるストーリーが、悶々としていた自分を助けてくれた。映画に助けられたんです。そこから漠然と映画業界に行きたいと思うようになりました。『ショーシャンクの空に』がきっかけだったんです。 監督:森ガキ侑大 1983年6月30日生まれ、広島県出身。大学在学中にドキュメンタリー映像制作を始める。卒業後、CMプロダクションに入社し、CMディレクターとして活動。17年に独立してクリエイター集団「クジラ」を創設し、以来、Softbank、JRA、資生堂など多数のCMの演出を手掛ける。17年、長編映画デビュー作『おじいちゃん、死んじゃったって。』がヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞。その後、TV ドラマ、ドキュメンタリーなど映像作品を演出し、「江戸川乱歩×満島ひかり 算盤が恋を語る話」(18/NHK)で第56回ギャラクシー賞テレビ部門奨励賞、「坂の途中の家」(19/WOWOW)で日本民間放送連盟賞テレビドラマ優秀賞を受賞する。その他の代表作に、TV ドラマ「時効警察はじめました」(19/テレビ朝日)、初のマンガ実写化に挑戦した『さんかく窓の外側は夜』(21)、コロナ禍の日本における人と仕事を追ったドキュメンタリー『人と仕事』(21)などがある。 取材・文:香田史生 CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。 撮影:青木一成 『愛に乱暴』 8月30日(金)公開 配給:東京テアトル 原作:吉田修一『愛に乱暴』(新潮文庫刊) 監督・脚本:森ガキ侑大 脚本:山﨑佐保子/鈴木史子 Ⓒ2013 吉田修一/新潮社 Ⓒ2024『愛に乱暴』製作委員会
香田史生
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