【福島原発事故11年】東電の津波対策はなぜ先送りされたのか? 「民間事故調」報告書より #知り続ける
政府の地震本部の長期評価に東電が“口出し”
純粋に科学的な見地から取りまとめられるべき政府の地震本部の長期評価に、東電が口出ししようとしたこともあった。 2011年3月3日、地震本部事務局の文科省の管理官らと東電の高尾ら電力会社の技術者らとの会議が開かれ、「宮城県中南部から福島県中部にかけての沿岸で(中略)巨大津波が複数回襲来していることに留意する必要がある」などの記載のある長期評価の文案が文科省側によって配布された。東電側が作成した記録によれば、東電側は「科学を否定するつもりもないが、色眼鏡をつけた人が、地震本部の文章の一部を切り出して都合良く使うことがある。意図と反する使われ方をすることが無いよう、文章の表現に配慮頂きたい」、「貞観地震が繰り返し発生しているかのようにも読めるので、表現を工夫して頂きたい」などと文科省に要望した。 これを受けて、文科省の側は長期評価の文案の修正に着手。3月8日時点の修正素案には、東電の意向に沿うかのように、「貞観地震の地震動についてと、貞観地震が固有地震として繰り返し発生しているかについては、これらを判断するのに適切なデータが十分でない」などと書き加えられた。 利害関係の当事者である東電が密室でのやり取りで地震本部の長期評価の公表文の表現内容を変えさせようとするのは、科学者による科学的な判断に対して、別の思惑で介入しようとするものと言わざるを得ない。技術者による技術判断を経営者が無理やり変えさせたスペースシャトル・チャレンジャー事故の事例と似て、科学的判断を歪めるおそれがある。それを積極的に受け入れようとした文科省はもちろん、東電も反省するべきであるのに、現実はそうではない。 東電は「当社は、現状を正しく反映した記載にすることを要望する旨の意見を述べたに過ぎ」ないとの見解を今も維持しており、つまり、何らの学びも得ていない。
監督官庁をも抑え込み「安全神話」作った東電の政治力
「東京電力の政治学」と題した第2章では、このほかにも原子力関連機関に継続して内在している本質的な課題として「グループシンク(集団思考や集団浅慮)、多数意見に合わせるよう暗黙のうちに強制される同調圧力、現状維持志向が強いことが課題の一つとして考えられる」という内閣府の原子力委員会の指摘を取り上げている。 また、東京電力の政治権力、経済権力などについて、政治学者の上川龍之進の「大地震や大津波、全交流電源喪失や過酷事故の可能性は何度も指摘されていたのに、そうした警告を無視することができたのはなぜか。それは東電には、監督官庁を抑え込んだり、原発反対の声を抑圧し、原発の『安全神話』を作り上げたりすることを可能にする政治権力と経済権力があったからである」という言葉を紹介。東電など電力会社の社風や企業体質はこのような対外的な「怪物」ぶりと切っても切り離せないであろう、と記す。