フランスでの不妊治療。「不幸せな気持ちになったらやめる」という医師の言葉が心の支えに【フランス福祉の研究者】
赤ちゃん時代から自分の意思を他人に伝える術を教える。それがフランスの教育
――乳幼児期の子育て環境についてフランスはどうでしたか。 安發 生後2カ月半から、働いていなくても保育サービスを利用することができます。そして3歳から16歳が義務教育です。義務教育はもちろん、高校、大学、専門学校、大学院の学費も基本的に無料です。 ――娘さんはフランスで教育を受けています。日本との違いを感じるのはどのようなことでしょうか。 安發 フランスの教育の軸は「小さいころから自分で考え、議論できる市民に育てること」。すごく印象に残っているのは、生後3カ月で保育園に入ったときのこと。娘はまだ寝返りすらできませんでした。自分で動ける大きな子がぶつかってきたとき、「嫌なら怒りなさい。怒らないと嫌だってわからないよ」と先生が娘に言ったんです。そして「怒るときはギャーッ!って言うのよ」と教えていました。 3歳で義務教育が始まると、フランス語の1学期の目標は、「自分が好きな絵本の内容と好きな理由を説明し、反対意見が出たら反論することができる」というものでした。 赤ちゃんのときから一個人として扱い、自分の意見を主張することと、相手の意思や考え方の違いを尊重する大切さを教える。娘の人生の土台を作ってもらっているんだと感じました。 ――日本の子どもたちが健やかに成長するために、必要なことは何だと思いますか。 安發 親が幸せだと子どもは幸せに育ちやすいです。そのために必要なのは、子育て中の親をしっかり支える枠組みです。「親を甘やかす」「私たちの時代はサービスなんてなかったけど必死で子育てした」と言われることがありますが、「私は我慢したからあなたも我慢するべき」という考えでは、「自己責任」の社会になります。そこでダメージを受けるのは、環境の影響が大きい子どもたちです。子どもが守られる社会を作れば幸せに育ち、人を守ろうとする大人が多い社会になると思います。 娘を産んだあとの助産師訪問の中で、「ママの人生と赤ちゃんの人生は別のもの。子どもはいろいろな人から愛情をもらい、学んでいく必要がある」と言われました。 子どもは親だけが育てるものではなく、複数の人に育ててもらうものなんだと、その言葉で気づいたんです。 2024年2月に、みんなで子どもを守り育てる社会の一つの姿を描いた『ターラの夢見た家族生活親子まるごと支えるフランスの在宅教育支援』という本を翻訳出版しました。どんな家庭に生まれても、安心して育つことができる環境を大人たちが用意することが大事、という価値観が広く共有されるよう活動しています。 お話・写真提供/安發明子さん 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部 フランスには、子どもを支える親を支えるしくみがあるとのこと。日本の子育て支援も発展を続けていますが、ママ・パパが自分を大切にしながら安心して子どもを育てられる社会を作りたいものです。