フランスでの不妊治療。「不幸せな気持ちになったらやめる」という医師の言葉が心の支えに【フランス福祉の研究者】
出産入院中、新米ママ・パパは専門職に「親をすること」を教えてもらう
――3年間の不妊治療の末、娘さんを授かりました。妊娠・出産について教えてください。 安發 妊娠4カ月ごろから胎児の脳が発達することから、フランスでは、妊娠中から胎児がどのような経験をしているのか、出産後どのような関係性や暮らしが待っているのかを想像しながら、専門職が予防的な支援を行います。 妊娠初期の面談が義務づけられていて、産科専属のソーシャルワーカーと心理士が社会面と心理面に注目し、必要に応じて妊婦にサポートを提案します。 私の場合、夫は夜と休日は仕事をしていると言うと、1人育児は大変だからと健康保険の費用で受けられる在宅支援がすすめられました。私がまだ心配したことがないことまで予想して、さまざまな提案をしてくれることに安心しました。自分は素人で何も知らないから、専門職に相談して助言を求めながら、子どもにとっていい選択をしていきたいと思いました。 私の出産は予定帝王切開でしたが、フランスでは自然分娩の場合は99%が無痛分娩です。「苦しまずに産める方法があるなら、それは権利である」として、1994年から無痛分娩が無償化されています。 出産時、私は夫の立ち会いを希望したけれど、夫の返事は「やめとく」でした。ところが、いよいよ生まれるというとき、夫が助産師さんに付き添われて手術室に入って来たんです。私が立ち会いを希望していることを助産師さんたちは知っていたので、夫をうまくリードして連れてきてくれたようです。おかげで、娘の産声(うぶごえ)を夫と一緒に聞くことができました。私には看護師さんがついていましたが、夫にも助産師さんが1人ついて、夫の顔色を観察し気づかってくれていました。 ――カンガルーケアはパパがしたとか。 安發 そうなんです。私が出産後の処置をしているとき、赤ちゃんを連れて手術室を出るなり、夫は助産師さんに「上半身裸になって」と言われ、胎脂でべとべとの娘を抱かされたそうです。夫はカンガルーケアのことをまったく知らなかったから、「せっかくかわいい産着を持ってきたのにイメージと違う」と思いながら、娘を抱っこしたそうです。 ――フランスに母親学級や両親学級のようなものはありますか。 安發 妊娠中に産科で、新生児のお世話のしかたについて質問しましたが、「赤ちゃんが生まれたら、その子に合った方法でお世話をするのが大事」と言われ、出産前に育児の練習をする場はありませんでした。 その分、出産入院中は私だけでなく夫も、しっかり赤ちゃんのお世話について指導を受けました。私は帝王切開の傷が痛んでも動くように促されましたが、夫はもっとガンガン指導され、「今、パパが赤ちゃんにできることは何だと思う?」と、親としての自覚とお世話の方法を教えられていました。退院するときには、娘のお世話はどれもこれも私より上手になっていました。 これは「母性や父性は存在しない。人は子どもが生まれたら自然と親になるのではない、時間をかけ親になるのだ」という考えがベースにあるから。日本では子どもが生まれたら、当然のように父親らしさ母親らしさを求める人がいます。フランスではすべての子育てを具体的に支えようとしています。