「肉と炭水化物をお腹いっぱい食べている」なら要注意…体と心に悪影響を及ぼす理由
アメリカにおける食肉産業の不都合な歴史
ここでアメリカにおける食肉産業の不都合な歴史を見ておきたい。1977年にワシントンで起こった政治的騒動は、肉と乳製品中心の現在のアメリカ食文化の道筋を作ったとも言える。当時、ジョージ・マクガバンを委員長とする上院栄養問題特別委員会はがんや心臓病、糖尿病など「食事が原因」の慢性疾患の驚くべき増加に対応する必要があった。 第二次世界大戦後、アメリカでは「冠状動脈性心臓病」の罹患率が急増していたが、植物を主食とする伝統的な食生活を送る他の文化圏では罹患率がとても低いことを委員会は知った。 また、疫学者たちは、肉や乳製品の配給が厳しく制限された戦時中、心臓病の発生率が一時的に急落したことを観察していた。これらを受けて上院栄養問題特別委員会は公聴会を開き、「米国の食事目標」と呼ばれるガイドラインを作成する。その内容は「赤身肉」と「乳製品」を控えるようアメリカ人に呼びかけるものだった。 ところが、数週間も経たないうちに問題が噴出する。 赤身肉と乳製品を販売している業界が委員会に非難の集中砲火を浴びせ、大炎上。マクガバン上院議員の退任と、ガイドラインの書き直しが余儀なくされた。 委員会の文書では元々アメリカ人に「肉の消費を減らす」よう勧めていたが、「飽和脂肪の摂取を減らすような肉、鶏肉、魚を選ぶ」という意味を理解するのが難解な、玉虫色の妥協案に置き換えられてしまったのだ。 私自身は「牛肉を食べるのをやめよう」などと言う気はない。アメリカでは、菜食主義のビーガンの人であっても、肉を食べない代わりに、食事の満足度を高めようとして穀物類を過剰に摂取し、その結果、肥満になっている人をよく見かける。 節制によって肥満になるくらいなら、肉を食べてもいいのではないかと思う(もちろんこれは政治的、環境的思想は考慮していない)。
肉の脂肪は魚の23倍
問題は、「脂肪の多い肉」を食べすぎることだ。一般的に、赤身の肉(牛肉、豚肉、羊肉など)は、皮なしの鶏肉や魚、植物性タンパク質に比べて飽和脂肪酸が多い。飽和脂肪酸は血中の悪玉コレステロール(LDL)を上昇させ、心臓病のリスクを高めてしまう。 6オンス(約170グラム)の魚一切れ(オヒョウ)は、タンパク質36グラムに対して、脂肪は2グラムしかない。一方、6オンスの牛肉(プライムリブ)は、ほぼ同量の38グラムのタンパク質に対して、脂肪はなんと46グラムも含まれている。 魚と牛肉では、タンパク質の量はほとんど変わらないのに、脂肪の量が23倍になるわけだ。肉を毎日毎食「主菜」として食べ続ければ、体に必要な適性脂肪量を超えるのは明白だ。 脂肪の適正量は一般的に、体重の15~25%とされている。これらの脂肪は体温の維持、生命維持、臓器のクッション機能など、体内で無数の役割を果たしている。そのため、一定量の脂肪は必要なのだ。 一方、消費する以上のカロリーを一定期間摂取し続けると、体は余分な脂肪を目に見えるところに蓄え始める。大抵の場合、男性ならお腹、女性なら太ももに表れる。余分な脂肪は疲労、心臓病、がんをはじめとする命に関わる無数の病気と関連している。 また、タンパク質、ビタミン、ミネラルを毎日摂取しなければ、脂肪をカロリーとしていくら摂取しても、体と心に不調が生じる。長期にわたってこれらの栄養が不足することは、体にとって大きなリスクだ。 つまり、「肉と炭水化物でお腹がいっぱいになる食生活」をしていると、脂肪の摂りすぎで肥満になり、栄養素が足りずにやがて不調を引き起こすということだ。 【つづきを読む】『「ポテチ、チョコを食べ始めると止まらない」は危険信号…意志ではなく食べ物に原因があった』では、超加工食品に潜む「真実」について解説している。
石村 友見(ヨガ講師・株式会社Life is Wellness代表)