受験対策と一線画す「異色の数学」で生徒に変化 「おもしろい授業をするのがいい先生」が原動力
「私だったらこう考える」という答えが求められる
同じく数学を教えている師岡洋輔氏の話も聞いた。「求められた答えを書くのではなく、『私だったらこう考える』という答えが、ドルトン東京学園では求められます」と、説明する。入試では、「求められた答え」でなければ点数はもらえない。だからこそ、多くの学校では「求められた答え」に早くたどりつくための指導になりがちで、暗記数学優先になってしまうのだ。 ドルトン東京学園の「私だったらこう考える」を象徴する存在がレポートである。ほかの学校ではテストになるのかもしれないが、ドルトン東京学園の数学では、課題についてレポートを提出することになっている。テスト時間のように決められた短い時間の中で答えるのではなく、数日間の長い時間をかけて考え、答えるようになっている。 答え方に決まりはないし、答えも1つではない。「私だったらこう考える」が反映されていれば、ひとつの正解にたどりついていなくても評価される。中には、エクセルで計算したデータをレポートに貼り付けてくる生徒もいた。そこには、「すべて、このプリントに収まるようにプリントしたら少し小さな字になってしまいました。見づらくなってしまいましたが、ご容赦ください」というただし書まで添えてあった。 「ほかの学校でも、考えさせることを重視してはいます」と、師岡氏は言った。さらに続ける。 「本校は中高一貫で6年間を通しての授業ができるので、数学的な計算技能を身につけていくことはもちろん、数学的に考える力もじっくりと育てていくことができます」 受験を前提にしている学校では、受験で合格することを意識しないわけにはいかない。じっくり考える力を身につけさせたいと教員は思っていても、どうしても受験で点数のとれる指導を優先せざるをえない。中学と高校の連携も難しい。 しかしドルトン東京学園は中高一貫校なので、高校入試を意識する必要はない。大学入試も絶対ではなく、進路選択の1つでしかない。大学入試を受ける必要があれば自分で考えて取り組めばいい、というのが同校のスタンスだ。もちろん、放っておくわけではなく、それを目指し取り組む生徒にはサポートもする。ともかく、テストで点数を取るためだけの指導はしないのがドルトン東京学園なのだ。 「いろいろな考え方を認める」という同校の数学の授業では、「つまらなくて寝ている生徒はいません」と数学科の金行将浩氏は言った。そこに師岡氏が、「全員が数学を好きなわけではないと思いますが、自分の考え方を大事にしてもらえるので、苦手だけどやってみようという生徒はいるはずです」と付け加えた。 自分の考えが認められないのでは、誰しもつまらなくなる。1つの答えしか求められないのでは、なおさら、おもしろくない。眠くもなる。ドルトン東京学園の数学の授業は、そういうものとは明らかに違う。 「いろいろな考え方を認める」のは、教員についても同じだ。指導内容や進度が横並びにされているわけではなく、教員1人ひとりが考えて工夫して自分なりの授業を組み立てている。