LGBTQ+当事者が幼くして覚えるのは“嘘をつくこと”
映像作品における性的マイノリティに関する表現を監修する“LGBTQ+インクルーシブディレクター”のミヤタ廉さん。今後ますます求められるであろう役割の日本における第一人者に話を聞いた。 【動画】LGBTQ+インクルーシブディレクター監修のBLドラマ
LGBTQ+インクルーシブディレクターの仕事
――“LGBTQ+インクルーシブディレクター”は、日本ではまだあまり馴染みのない職業ですが、どのようなお仕事なのでしょうか? 「主に映像作品、小説、漫画などでLGBTQ+のキャラクターが描かれる場合に、クライアントからの希望によっては脚本段階から関わり、キャラクター設定や、当事者以外の方たちが誤解した形で表現している部分の修正などを行います。 作品の宣伝に関わることもあります。同性愛を扱ったアメリカ/イギリスの映画『異人たち』(2024年公開)へのコメントを依頼された際、とても良い作品だと思ったので関係者の方に『何かできることがあれば』とお伝えしたところ、“LGBTQ+の方たちに向けた宣伝のお話をいただき、僅かながら携わらせていただきました」 ――脚本監修としては、具体的には、どのような表現について修正されているんですか? 「LGBTQ+にまつわる表現で、当事者にとって引っかかる部分についてプロデューサーに説明し、修正のご提案をしたり、演出する上で気を付けるべき点をお知らせします。 当事者以外の方たちの間で作られた“イメージ”があり、例えば、“性交渉できる相手を探すためゲイバーに行く”という描かれ方があった場合、まずは『現実には、そういった目的のみで営業している店はあまりありません』とお伝えし、ストーリー上でそうした表現が必要な場合は、その時々に合わせたアドバイスをします」
LGBTQ+当事者のキャラクターを描く上での意識の変化
―― “LGBTQ+インクルーシブディレクター”という役職名にされたのは、どのような経緯なのですか? 「映画『エゴイスト』にスタッフとして参加した際に、今後も活動していく上でしっかりとした肩書きを作ろうと、主演の鈴木亮平さんや有識者の方に相談して役職名を決めました。海外を見ると、2022年にNetflixでヒットした”Heartstopper”にはJeffrey Ingoldさんという方が、コンサルタントという名称で参加しています。 また、アメリカでは、 “組織” としてメディアにおけるLGBTQ+の描かれ方をモニタリングしている”GLAAD”という団体もあり、包括的な問題意識についても発信されていますし、GLAAD Media Awardという賞を催して、LGBTQ+コミュニティに貢献したメディアや人物を多くの部門で表彰しています。 映画『エゴイスト』(2023年公開)は北米やヨーロッパ、エンドロールで流れる僕のクレジットを見て興味を示す人が多かったと聞きます。僕自身も直接、イギリスやフランスの記者から『具体的にどういうことをしたのか』『あのシーンにおいてどういう考えで彼にアドバイスしたのか』などインタビューされ、関心の高さに驚きました。『25時、赤坂で』も、世界に配信されていますので、世界の方々が“LGBTQ+インクルーシブディレクター”のクレジットを見てどう思うのか興味深いです」 ――お仕事をされる中で、LGBTQ+当事者のキャラクターを演じる俳優さんの意識や演じ方が変わってきていると感じることはありますか? 「今まで仕事でご一緒した、映画『エゴイスト』の鈴木亮平さんや、トランスジェンダー男性役が登場する映画『52ヘルツのクジラたち』(2020年公開)で主演をされていた杉咲花さんは、驚くほど勉強してましたね。その上で、どういう演じ方がいいのか、自分の役を演じる上でLGBTQ+のキャラクターをどういう気持ちで受け止めればいいのか、などたくさんの質問をされました。 また、映画『エゴイスト』『52ヘルツのクジラたち』の取材において、俳優さんたちが、特にLGBTQ+やセクシュアル・マイノリティについて伝えたい事に齟齬が生じないよう、僕やライターの松岡宗嗣さんが、言葉や表現について一緒に考えたりしていました。 それはキャストの皆さんにご自身の言葉で遠慮なく発信してもらう為の作業でもありますし、携わったほとんどのキャストの方々が、当事者や周りの方たちを意図としない形で傷つける言葉や間違った表現が一つでも入っていないかというところにまで意識を向けていました。そうした俳優さんの姿勢は周りの俳優さんたちに変化を与えていくのではないかと思いました。 ただ、ある程度年齢を重ねた世代の方の中には、過去のエンターテインメントで映し出されてきた“想像上のゲイ当事者のキャラクター”が強く刷り込まれていることもあるかもしれませんので、そうした部分を共に時代に合わせて調整していければと思っています」 ――そうした作られたイメージが影響していると感じられるのは、どんなところですか? 「例えば『オカマバーみたいなものを作りたいんです』と言われた時、まず作りたい理由を確認し、その上でコメディリリーフ的な描き方を求められている場合に『それは難しいです』とお伝えすると『実際にそうした店は存在するのに、なぜダメなんですか』と言われたりします。 実際、ビジネスとして現実に存在していても、それをフィクションの世界の中で映像として表現・表象することでは、そこに現れる意味が違ってきます。作品内の“笑いの要素”としてだけ“オカマバー”を使いたいというのは、物事の表層の一面でしかなく、そのために過去のエンタメにおいて、失われてきた背景や多様性があり、多くのセクシュアルマイノリティに不快さを抱かせ続けてきた歴史があることなどをお話しさせていただきながら、なぜダメなのか、何がNGなのかを先方に説明して、納得してもらって、より幅広い人たちにとって良いものができるように別のアイデアを提案していくことが僕の仕事です」