「人との距離の取り方、詰め方の正解がわからない」お悩みにアドバイス
文筆家として恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを多数執筆している『桃山商事』代表の清田隆之さんによるBOOK連載。忙しい日々の中、私たちには頭を真っ白にして“虚無”る時間も必要。でも、一度虚無った後には、ちょっと読書を楽しんでみませんか? 今抱えている、モヤモヤやイライラも、ちょっと軽くなるかもしれません! 【画像】人との距離感に悩んだときにおすすめの本 2選
人との距離の取り方、詰め方がわからない…。コミュニケーションの正解、不正解を判断するには?
【今月の“虚無っちゃった”読者のお悩み…】 社会人10年目を迎えます。最近、同僚との間でよく話題になるのが、「世代によって、人との距離の取り方、詰め方がかなり違う」という問題。後輩に、コロナ禍以降に入社した人たちがいるのですが、自分が新人の頃よりも、いい意味でドライ。気を遣いすぎることなく自分軸で動いているのを見ると、「気持ちがいいな~、自分にはできなかった!」と思ってしまいます。一方、その様子を見た上司や先輩は、顔には出さずとも物足りないよう。上司や先輩の気持ちもわかりつつ、後輩のさっぱりした振る舞いが羨ましくもあり……。板挟みがつらくなると、虚無ってSNSを見続けてしまいます。コミュニケーションの正解、不正解を、どうやって判断していけばいいのでしょうか?
ライターF:今回のテーマは、“人との距離の取り方、詰め方”。相談者さんは社会人10年目ということで、上司や先輩と、後輩との間で板挟みになっているようですね。 清田さん:なるほど……自分のタイムラインには、最近やたらと収納系のショート動画が流れてきて、「シンデレラフィット」という言葉に胸躍るようになってしまいました。 そんなことはいいとして、僕自身はいわゆる会社組織に属した経験がないのですが、相談者さんが味わっている“中堅ならではの板挟み状態”というものは、自分にも身に覚えがあります。 時代的な流れで見れば、バブル崩壊以降、ずっと右肩下がりの世の中で、会社にフルコミットすることより、自分で自分の身を守ることのほうが重要、という価値観が主流になってきましたよね。昭和から平成、令和へと時代が移り変わるにつれて、「会社は家のようなものだ!」「仕事仲間はファミリーだ!」「飲みニケーションは必要不可欠だ!」みたいな考え方から、「いや、会社は仕事をするための場所ですよね」「自分たちには個人的なプライベートの時間も大切なので」「会社では仕事に必要な関係を築き、それ以外はちゃんと線を引くべきだ」みたいな考え方に、どんどんシフトしているように感じます。 だから、相談者さんが20代だった頃は、当時30代だった人たちがこのお悩みのようなことを感じていたかもしれないし、今40代の自分が20代だった頃だって、さらに10~20歳上の世代の人たちが同じように感じていたかもしれない。こういった世代差は、社会構造が生み出している側面もあると思うんです。 エディターH:ということは、いつの時代も中堅世代が抱えてきた悩み、ということでしょうか。 清田さん:ただ、ここ10年くらいで、ハラスメントやコンプライアンスへの取り組みが進み、「権力を持っている側がそうでない側を、無自覚に傷つける事例があるから気をつけなくては」という意識が、すごく高まっていますよね。それが進んで、昔なら若者の立場でいられたはずの30代の人にすら、「加害者になってしまったらどうしよう」という恐怖感が広がっているような気がします。 もちろん、そういう時代や社会の変化はあってしかるべきものだと思います。でも、それによって、相談者さんの文面からにじみ出ている、「上の世代にされて嫌だったことはしたくない」「でも、自分たちが慣れ親しんだコミュニケーションが通用しないのはもどかしい」「自分たちにはできなかったことをやってのける後輩たちに、どこかで嫉妬してしまう」というような、複雑な気持ちが生まれているところもあるのではないか……。 ライターF:難しいですね。「コミュニケーションの正解、不正解を、どう判断していけばいいのでしょうか?」とありますが、時代や社会が変わっていくと、正解、不正解も変わってくるでしょうし……。 清田さん:そうなんですよね。これからも変化は続いていくだろうから、一度正解にたどり着けたと思っても、1年後には不正解になっている可能性もある。「これが正解!」「こうすれば間違いない!」というものは、おそらく存在しない。 ……と言うと希望がないように聞こえるかもしれませんが、面倒でも、試行錯誤しながら、その時その時で、その人その人との、コミュニケーションのあり方を探っていくことはできるし、それはすごく大事なことなんじゃないかな、と思います。 文筆家 清田隆之 1980年生まれ、早稲田大学第一文学部卒。文筆家、『桃山商事』代表。ジェンダーの問題を中心に、恋愛、結婚、子育て、カルチャー、悩み相談などさまざまなテーマで書籍やコラムを執筆。著書に、『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門―暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信』(朝日出版社)など。12月20日に『戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ』(太田出版)が発売予定。桃山商事としての著書に、『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)などがある。Podcast番組『桃山商事』もSpotifyなどで配信中。 イラスト/藤原琴美 構成・取材・文/藤本幸授美