じつは、そう「単純ではなかった」…じつに多くのパターンで、この体を調節していた「体内時計の、驚愕のはたらき」
すぐに戻るリズム、戻らないリズム
外的脱同調は、体内時計を狂わせてしまいます。血圧や心拍のリズムは、すぐに海外の生活リズムに順応できますが、体温や排便のリズムは、新たな生活リズムに順応するのに1~2週間かかります。 その結果、出発前に日本での生活時間に適応して体内時計が調整していた体温や血圧、自律神経やホルモン、睡眠・覚醒などのリズムのシンフォニーが、新しい環境下ではバラバラになってしまいます。このような現象を外的脱同調に対して、「内的脱同調」といいます。 内的脱同調が起こると、疲労感や睡眠障害、頭痛や吐き気、便秘や胃のもたれといった症状が現れ、仕事の能率が上がらなくなってしまいます。これが「時差ぼけ」です。
生体リズムとは?
ここであらためて、「時間治療」を理解するうえで非常に重要な用語である「生体リズム」について考えてみましょう。 体内時計が調節している血圧や自律神経等の体のリズムのことを「生体リズム」といいます。 約24時間のリズムが生体リズムの代表です。たとえば、就寝時刻や起床時刻など、体のリズムは24時間を基本としつつも、日々少しずつ異なるのが通常です。そこで、24時間(ラテン語で「一日」を表す「ディアン」)の前に「約」(同じくラテン語で「サーカ」)をつけ、「サーカディアンリズム」(約24時間のリズム、あるいは「概日リズム」)とよんでいます。 私たちの体には、約24時間周期のサーカディアンリズムのほかにも、さまざまな周期/リズムが多重に存在しています。「ウルトラディアンリズム」とよばれる約12時間、8時間、90分といった24時間よりも短い周期のリズムもあれば、「サーカセプタンリズム」とよばれる7日のリズム(あるいは3.5日のリズム)や30日のリズムといった、24時間よりも長い周期のリズムもあります。 先ほど時差ぼけの例でみたような体内時計の乱れの主役は、「位相のずれ」です。 位相とは、振動や音波のような、同じ運動が周期的に繰り返されるときの波形全体を指す言葉です。体内時計に基づく生活時間でいえば、その波形のずれが体内時計をかき乱すことになります。 体内時計の乱れにはその他にも、「リズム周期の変化」と「リズムの振幅の低下」があります。 ◇ ◇ ◇ じつは、体内時計の乱れは、このようにきわめて複雑です。続いて、海外への旅行で起こる「生体リズムの変化」についての、著者自身がおこなった興味深い調査を見てみます。そして、こうした乱れは、じつは、私たちの身近なところでも起こっていました。 時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間
大塚 邦明(東京女子医科大学名誉教授/ミネソタ大学ハルバーグ時間医学研究センター特任研究員)