もうひとつ考えられるのは将来へのアピールだ。現在の五輪は大規模化を抑制するために一部の人気競技を除き出場選手数やメダル数を抑える圧力が強い。実際にレスリングは約20年前から徐々に階級数を減らしてきた。だが、未来は状況が変わるかもしれない。そのとき、ひとつでも多い階級で世界選手権を開催している実績があれば、階級増が可能になったとき有利に働くだろうと見込んでいるのだ。 　しかし、ひとつめの減量幅への対処は60～70kg台の選手層が厚いロシアやアメリカなど体格が大きめの国への配慮に偏っている。日本を含めたアジア諸国は50～60kg台の選手層が厚いが、通常体重が50kg台のレスラーのことはまったく顧みられていない。 　ふたつめの未来の五輪へのアピールだが、IOCが五輪競技にふさわしい性質として好む競技水準の向上と普及には貢献しないだろう。五輪で実施されない階級が、どのような運命をたどるかは過去10年間の女子レスリングの例をみれば明らかだ。 　2004年アテネ五輪から2012年ロンドン五輪まで、女子は五輪は4、その他では7階級という変則実施種目の立場だった。その結果、年々、五輪実施階級にばかり選手が集中し、五輪で採用されていない階級の選手層は薄くなった。世界選手権で試合を見ると、競技水準の差が五輪実施か非実施によって開く一方となった。 　組織は10年後、20年後を考えて計画を立てたのかもしれないが、レスラーが世界一を目指す現役選手でいられる時間は長くない。五輪でメダルを取るために、選手はリオデジャネイロ五輪で実施されない2階級へ出場する年月を惜しむだろう。 　新階級制度は各国からの電子メールによる「投票」によって決まったため、ちょっと見たところ民主的な決定であるようにうつるかもしれない。だが、実際には民主的とはほど遠い。FILA事務局では、どの国がどういった内容の票を投じたかが筒抜けであり、投票の秘密が守られていない。さらに投票結果の票数も不明だ。