レスリング新階級制度の死角
レスリングは、その「分かりづらさ」が、一度は、五輪競技から消滅しかけた理由のひとつだと言われている。ところが、12月17日に発表された「新階級制度」は、目指す方向に逆行していると言わざるを得ない。 2016年リオデジャネイロ五輪で実施されるレスリング競技は、9月のIOC総会でプレゼンテーションした通り各スタイル6階級ずつ。フリースタイルが57kg、65kg、74kg、86kg、97kg、125kgでグレコローマンが59kg、66kg、75kg、85kg、98kg、130kgでこれまでより1階級ずつ減少し、女子は48kg、53kg、58kg、63kg、69kg、75kgと2階級増えた。
ところが、世界選手権やアジア選手権などの各大陸選手権、団体戦で行われるワールドカップなど国際レスリング連盟(FILA)公式大会には上記の各6階級に2階級ずつ追加されるのだ。フリースタイルには61kgと70kg、グレコローマンには71kgと80kgが、そして女子には55kgと60kgが加わって各スタイル8階級ずつで争われる。 五輪と、世界選手権などの国際大会とでは異なる階級数になるのである。2種類の階級が混在する状態は、「見てわかりやすい競技」とは言えないだろう。 なぜ、このような変則階級制度を実行しようとするのか。発表された新階級制度についてのリリースには、どこにも理由が書かれていないため類推するしかない。ひとつは、あまりに階級間の体重差が開きすぎているという理由だ。 減量をする場合、通常体重の1割程度が標準量だといわれる。女子の場合はもっと小さい幅になるが、二つの階級間が10kgも離れてしまうと、どちらも適正な階級にならない体格の選手が出現してしまう。五輪は階級を減らすと約束したためやむを得ず大きな幅の開きを受け入れたが、ふだんはレスラーにとって無理が少ない制度を維持しようというのだ。