阪神“怪物新人”佐藤輝明に49年ぶり新人OP戦最多6号を許した西武が感じた凄さと課題とは?「ツボを持っているのは凄い」
応援歌の合唱や鳴り物の使用が禁止されている、新型コロナウイルス禍のメットライフドームに激しい衝撃音が響きわたった。美しい放物線を描いた白球が5秒とたたないうちに、約135m先の右中間スタンド中段に着弾する。プロ野球の歴史に新たな1ページが刻まれた。 阪神のドラフト1位ルーキー、佐藤輝明内野手(22、近大)が17日の西武とのオープン戦で3試合連続となる6号ソロをマーク。プロ野球にドラフト制度が導入された1965年以降のルーキーで最多記録だった、1972年の佐々木恭介(近鉄)の5本を実に49年ぶりに更新した。 歴史的瞬間は2回の第1打席で訪れた。先頭打者として左打席に立った佐藤が、西武の先発・今井達也がカウント1-1から投げ込んだ外角高目、150kmのストレートに狙いを定める。バットの芯でとらえられ、ピンポン球のように飛んでいく打球を見届けた2016年のドラフト1位右腕は、同じ1998年度生まれのルーキーに浴びた特大アーチを「悔いが残ります」と振り返った。 「身体がとても大きいと思いました。ストレートに振り負けない鋭いスイングでした。けっこう飛ばされてしまいましたね。インハイで勝負すればよかったか、と」 身長187cm体重94kgのサイズを誇る佐藤の筋骨隆々のボディが、マウンドに立つとさらに大きく見えた。森友哉が構えたのは外角低目だった。失投ではあるが、外角の高めから真ん中が佐藤が最も得意とするゾーンである。リーチの長さとアッパー気味のスイングを考えるとインサイドに弱点の可能性があった。前日はヤクルトの徹底した内角攻めをモノともせずに返り討ちの5号2ランを放っているが、今井が そこを攻めておけばと後悔するのは間違いではなかった。 西武の辻発彦監督も苦笑いするしかなかった。 「あそこは試しにいったのかはわかりませんけど、ああいうカウントで真っ直ぐが甘く入ったら打たれますよ、ということなのでね」 オープン戦6号につながった配球の意図を確認していないと前置きした辻監督は、長距離打者に対してストレートで不用意にストライクを取りに行くのはあまりにも無謀だと、チームを率いる指揮官の目線で苦言を呈した。 甲子園球場で12日に行われたオープン戦でも、今シーズンの開幕投手に指名しているエース、高橋光成が佐藤に第3号を浴びていた。このときも2回の先頭打者として登場した佐藤に、外角の甘いコースに投じた146kmの初球ストレートをレフトスタンドに運ばれている。 辻監督は、プロ野球界に生きる一人の人間として、ゲームにおける最大の華となるホームランを、打ってほしいと期待される状況で結果を出し続けている佐藤の姿には目を細めずにはいられなかった。 「あそこまで飛んで、さらに着弾の速さというか、打球の速さは素晴らしいと思いましたよね。ツボをもっているのはすごいと思いましたし、それだけのホームランバッターだと感心しました」 だが、佐藤に「勝負の世界の掟」が待ち受けていることも示唆した。プロ野球界の先輩として、これまでに何度も目の当たりにしてきたルーキーの試練だ。 「彼も研究されて、いろいろなデータも取られているでしょう。まあ、バッティングカウントですーっと(ストレートを)放ることもないでしょうね」 被弾した第1打席を終えて、実際に首脳陣から指示が出されたのか。第2打席以降の佐藤は今井のシンカーを引っかけてセカンドゴロに、2番手・井上広輝のスライダーに再びセカンドゴロに、そして4番手・宮川哲のフォークボールにレフトフライとすべて凡打に終わっている。