デートで奢らない男性は損をする?ジェンダー論では語りきれない「奢り奢られ問題」の本質
SNSでよく論争が巻き起こっている、男女の「奢り奢られ問題」。時節に寄せてクリスマスのデートに関する調査(※1)を紹介すると、「クリスマスでのデート代は奢る?or割り勘?」という質問に対し、一番多い回答は女性では「相手が多めに支払う」(39.1%)で、男性では「自分が全て支払う」(53.6%)だった。 【写真】韓国の男性のほうが紳士的?日韓の恋愛観はこんなに違う ただ、女性では「割り勘」が36.9%と次に多かった一方、男性で次に多かったのは「自分が多めに払う」の38.4%で、「割り勘」と答えたのは僅か7.4%。男性のほうが「デートでは男性が奢るべき」という性別的規範をより強く内面化していることが窺える。 奢り奢られ問題は、男と女はこうあるべきという旧来的な性別的規範とリベラルな男女平等の価値観の対立のように語られがちだが、「そう単純な話ではない」と指摘するのは、ライターで編集者の速水健朗さんだ。自身のポッドキャスト「速水健朗のこれはニュースではない」(エピソード59)の中で令和の奢り・割り勘について独自の考察を展開している。 今回、速水さんに奢り奢られ問題について多角的な視点から考察してもらった。ネットや書籍で語られるさまざまな意見を踏まえて速水さんが辿り着いたのは、文化人類学の「贈与」というキーワードだった。 ※以下、速水さんによる寄稿。
奢らない男性はケチ認定されるのが現実?
世間のカップル成立の件数を増やすためにも、割り勘が促進されるべき。こども家庭庁は、割り勘デートを推進するための立法案に向け取り組みを始めた、というのは嘘だが、行政がマッチングアプリを運営するこのご時世であれば、そんな話になっても不思議はない。 奢りか割り勘かの議論は、これまでにも何度も繰り返し論じられてきたテーマだ。まず前提として、時代の価値観は変わったといっても、男性は奢るべきという価値観は根強く残っている。え、若い世代は違う? とはいえ、周辺でヒアリングしてみた感触など含め、必ずしもそうとも言えなかった。人によるのである。そんなありきたりな結論は一旦、脇に置くとして、ひとつ証拠を提示しよう。 日本最大級の結婚相談所ネットワークIBJは、「ルールではない」と注釈を付けながらも「なるべく男性側がお支払いするようおすすめしています」というガイドラインを示している(※2)。その理由として、「一度ついた『ケチ』という印象はなかなか払拭するのが難しい」と説明されている。これは婚活の現場で割り勘を持ち出すことで失敗する男性が多く、そこへの対処としてのアドバイスと捉えるべきだろう。 男が払うのが当たり前。それを主張しすぎるとネットでは炎上するが、女性の中で「男が奢る派」は現実ではまだ一定数存在する。その意見をネットから切り出してみる。割り勘では(自分が)大事にされている実感がもてない、(男性が)いいところを見せようとしてくれている姿を示してほしい、割り勘という発想自体がセコいなどの意見がある。 一方、「割り勘派」は、デートは対等がいい。貸しを作りたくない。男女平等社会に逆行している。両者の関係性を換金することに反対、などである。